第3話 戦士達の決断
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正気を取り戻した騎士達は、狂った自分達が守るべき民を殺めていたと知り、竜正に涙ながら介錯を求めた。
殺す力しかなく、救う力を持たない少年は。ただ彼らの「救い」になると信じて、剣を振るより他なかった。
それは伊達竜正の名さえ捨て去り、ダタッツと己を改めた今でも変わらない。
殺すことで救う。救うために殺す。矛盾の極致たるその理念の中にしか、彼が選べる正義はなかったのだ。
選べるとしたら、それは。
苦しまずに殺すか、否か。
その二択しかない。
だから彼は、前者を望む。罪を贖う資格さえ持たない超人が、ただ一つ人間を救える術として。
◇
「オッ、ゴ、ォ……オァオォッ!」
「……ッ!」
狂乱の気を纏う鉄仮面の刃。二振りの妖しい輝きを放ち襲いくる、その技をダタッツはよく知っている。
王国式闘剣術、叢雲之断。二本の剣で不規則に斬りつけ、相手に剣閃を見切らせずに斬り捨てる技だ。
剣を握る左右の手を非対称に振り、さらに剣速も緩急自在に操る技であり、王国騎士団でも会得者は片手で数えられる程度もいないと言われている。
騎士アルフレンサーはこの技を以て、何百人もの帝国騎士を斬り伏せてきたのだ。
「ウァガァオォアァアアァアッ!」
「……!」
その不規則に乱れ飛ぶ斬撃を。ダタッツは鮮やかにかわしながら、懐へと踏み込んで行く。軌道を読むことが困難であることが特徴の、叢雲之断を前にして。
そして自身に肉迫する剣の手元を柄で押さえ付け――手首を返し、脇腹に強烈な一閃を見舞う。音のエネルギーすら破壊力へと変貌し、鈍い音と共にシンの巨体が大きくよろめいた。
「グガ、ガ、ガガゴ……!」
「……」
そんな狂人の姿を前に、ダタッツは寸分の油断も見せることなく静かに剣を構え直した。脇腹に受けた衝撃の重さゆえか、シンは息一つ乱さない相手とは対照的に、激しく肩で息をしている。
――本来、剣士の一騎打ちで同じ相手と複数回に渡って戦うケースは稀。
ダタッツの帝国式投剣術にしろ、シンの王国式闘剣術にしろ、初めて遭遇した敵をその場で殺す前提で技を練っている。
ゆえに、全く同じ相手と同じ流派のままで戦い合うこと自体が異常なのだ。どちらも同じ相手と戦い続けていると、次第に手の内を読まれてしまうもの。今のシンのように。
そのうえ――狂気ゆえに彼の技は、どこか精彩を欠いていた。グランニールの動体視力でも看破できないほどの微々たる変化だが、五年前に剣を交わしたダタッツは、その僅かな違いを敏感に感じ取っている。
(俺に斬られた影響で、精神に異常を来たしているせいで――剣閃が乱れ、僅かだが狙いが甘くなっているな。……それだけじゃない。阿修羅連哮脚も、効いていないわけじゃなかったんだ)
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