第3話 戦士達の決断
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――地理の把握は完璧だった。何しろ、元々ここはグランニール親子の家なのだから。
(あの臆病なバルキーテのことだ。戦いになれば、極力戦場から離れようとするだろう。だが、今の奴にとってこの港町は唯一無二の資金源。五年前のように、おいそれと手放しはしまい。ならば……)
屋敷裏の穴から、地下深く続く階段。鈍い灯火の光が、その足元を僅かに照らしている。こんな状況で、普段使われないような道に灯火がある。
つまり、この状況下でここを使った者がいる――ということだ。下り階段が終わった時、広々とした無機質な地下室に到達した二人は、すぐさまその答えを確かめることとなる。
「ぬっ……!? グ、ランニール……!? な、なぜこうも早く……!」
「……一人。頼もしい味方が増えてな」
その奥に隠れていた、でっぷりと膨れた醜男の影。腰にぶら下げていたカンテラの灯で、その先を照らしたところに――バルキーテの姿が現れた。
予想だにしない早さで、ここまで乗り込まれたことに狼狽する愚者。そんな彼を、海賊親子は容赦無く視線で射抜く。
自分達から全てを奪った、憎き仇敵。それが今、目の前にいるのだから。
「オレ達を弄んだ罪……町の皆を苦しめた罪。兄さんの覚悟を、踏みにじった罪! 全て、全て償わせてやる! 覚悟しろバルキーテッ!」
激昂するシュバリエルは、感情の赴くままに四矢を構えて狙いを定める。寸分たりとも揺るがない高精度の矢じりが、醜男の眉間を捉えた。
「ひ、ひひぃい! こ、来いシンッ!」
「――! 伏せろシュバリエル!」
「……っ!」
だが、そこから轟く情けない悲鳴が、「引き金」となっていた。地下室一帯に迸る、強烈な殺気の奔流。それを肌で感じ取った二人は、咄嗟に構えを解いて地に伏せる。
次の瞬間。亀裂を走らせる暇すら与えられず、地下室と地上を隔てる天井が、弾けるように粉砕された。轟音と共に吹き荒れる瓦礫が、三人の周囲に降り注ぐ。それは、さながら隕石のようだった。
「……!」
立ち込める土埃。その先に潜む、圧倒的にして絶対的な「殺気」。生物としての本能に訴える、「狂気」の極致。
それら全てを一身に纏う――髑髏の鉄仮面で素顔を隠す、二刀流の鎧騎士。鉄仮面の隙間から僅かに覗く青い瞳が、煌々とした輝きを放っていた。
例えるなら、暗闇の中で獲物を狙う猛獣。理性という概念を持たない、人の形を借りた魔物。
その男――シンの両手には、王国騎士の証である二本の剣が握られていた。その姿に、真っ先にシュバリエルがいきり立つ。
「出たな……シン! 兄さんと同じ技を使い、兄さんの技を穢す不届き者! 刺し違えてでも、今日こそ貴様を討ち取るッ!」
「待てシュバリエル、逸るなッ――!」
「獅子波濤ッ!」
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