第2話 港町の真実
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固まったままのシンを一瞥する。ダタッツさえ欺いた彼の不動の姿勢は、今この瞬間も実践されていた。
(思えば、あの時シンを……いや、アルフレンサーを拾わねば、儂はとうにあやつらに討たれていたやも知れん。ふふ、儂自身の強運に驚かされるばかりじゃな)
目を細め、シン――と成り果てた男を見つめるバルキーテ。彼の脳裏に、五年前の記憶が蘇る。
……あの豪雨の夜。帝国軍と協力関係を結んでいたバルキーテは、奈落の底にアルフレンサーが墜落する様を目撃していた。帝国勇者の、投剣術と共に。
遠巻きゆえに詳細こそわからなかったが、アルフレンサーが帝国勇者に討たれた事実だけは間違いなかった。彼が二刀流を得意とする騎士であることは、バルキーテも知っていたのだ。
奈落に消える、二本の剣を持った剣士。その瞬間に居合わせたバルキーテは、数人の帝国騎士を連れて谷を下り、アルフレンサーの遺体を探すことにした。
アルフレンサーの首を振りかざしてやれば、グランニールの心を完全に折ることができる。そんな歪な復讐心からの行動だった。
――が、思いの外早く見つかったアルフレンサーは。死んではいなかった。
自分に纏わる記憶と引き換えに、一命を取り留めていたアルフレンサーは、バルキーテを命の恩人と誤認。それを好機と睨んだ裏切り者は、言葉巧みに「アルフレンサー」という人格を青年から消し去り――自分の用心棒「シン」に仕立て上げた。
記憶喪失を差し引いても、どこか精神に異常を来たしている節はあったが――王国式闘剣術の達人を戦力として引き入れられるのは、大きい。
自分に関する記憶がなくとも身体が戦い方を覚えているのか、剣捌きは間違いなく王国騎士のそれであった。
以来、アルフレンサーだった男はシンと己を改め、バルキーテに忠実な傀儡と成り果てたのだ。
記憶が失われ精神すらも朦朧とする中、義に報いねばならないという騎士の根幹だけが彼を支えていた。……それゆえ。彼は自我さえ曖昧なまま、忌むべき敵であるはずのバルキーテに仕えるようになったのである。
そうして彼はバルキーテに仕向けられるまま、故郷奪還を目指して奮闘する父と弟に、剣を向けてきたのである。五年に渡り、絶えることなく。
そんな親子同士の殺し合いを演出することも、バルキーテが仕組んだグランニールへの復讐の一つだった。この港町出身の下級貴族でありながら、名門出身の自分を差し置いて町長の座につき、町民の信望を独占した彼への。
(く、ふふ。くふふふふ。悔しいか。悔しいかグランニール。ざまあみろ。貴様ら一家を根絶やしにした後は、この港町だ。町民が死に絶えるまで重税を搾り取り、用済みになれば町ごと切り捨ててくれる。儂はその資金を元手に栄えある帝国に渡り、この港町は王国の地図から消え去るのだ)
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