第2話 港町の真実
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の、圧倒的な体躯。赤いインナーの上に纏われた、漆黒の鎧。悪魔すら可愛らしく見えるほどの禍々しさを湛えた、髑髏状の鉄仮面。
腕を組み、仁王立ちの姿勢で静止している、その像。それが、「シン」だとバルキーテは言う。
(……部屋に入ってから、人の気配はバルキーテさんか、料理を運んでくるメイドさんくらいしか感じなかった。この像が「シン」だというのか……?)
ダタッツは信じられない、とばかりに席から立つと、像に歩み寄り髑髏兜を見上げる。生きている人間とは思えぬほどに、その身は微動だにせず静止していた。
――生きていない像であれば、それで当然なのだが。
「……」
「――ッ!?」
人が入っているはずがない、髑髏の鉄仮面。その眼が覗いている部分と――眼が、合った。
先ほどまで真っ黒で見えなかったはずの、その「眼が覗いている箇所」からは、確かに碧い瞳が輝いている。人間の、瞳が。
その現象は、この鎧の中に「人間」がいることの証明となっていた。正しくは、ダタッツの索敵能力を欺く人間がいることの。
「シン。そんなところにいつまでも突っ立っていては、ダタッツ殿の食事の邪魔になろう。席を外したまえ」
「……」
バルキーテは、戦慄のあまり硬直しているダタッツを尻目に、像に命令を下す。傍目に見れば、それは物言わぬ像に話し掛ける道化の所業。
だが――物々しい金属音と共に、像だった「シン」が動き出した今となっては道化とも言い難い。鉄と鉄がこすれ合う、歪な音と共にシンは台座から降り、カーペットの上を歩く。
本の数秒前まで、本物の像のように微動だにしなかった鉄の塊が、人間と違わぬ挙動で歩いている。その現象を、ダタッツはただ茫然と見ているしかなかった。
(まる、で……気配を感じなかった。しかも、あの目……あの目は……!)
だが、彼を釘付けにしていた理由は、自分が気配を感知出来なかったことだけではない。あの碧い瞳が孕んでいた「狂気」に、見覚えがあったのだ。
――帝国勇者に斬られた人間が、辿る道は二つ。そのまま剣の錆となるか。あるいは、「生」と引き換えに「狂」に堕ちるか。
ダタッツは、後者の色を知っている。斬られた者の運命を破壊する、「狂」の色を。
そして。
『テイ、コク。ユウシャ』
「……!」
動く鎧騎士像が、部屋から消える瞬間。
自分のものでも、バルキーテのものでもない「声」を、ダタッツの聴覚が拾い上げる。
小さ過ぎて、声であるかどうかも疑わしいほどに、小さな音。
だがその程度の事象でも。
彼に全てを悟らせるには、十分だった。
◇
――翌日。
バルキーテ邸で朝食を摂った後、ダタッツは町へと繰り出していた。昨日は港町に到着早々戦い
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