第1話 海賊、グランニールの一味
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睡みから覚めたばかりの彼にここが船上であるということを思い出させていた。
「……くそ、また昔の夢を見るように……」
日差しの眩しさか、悪夢への辟易か。青年は顔をしかめ、ベッドから立ち上がると黒ずんだ服に袖を通す。腰に届くほどの長さを持つ黒髪が、その弾みでゆらりと蠢いた。
鍛え抜かれた屈強な肉体を古びた黒布で覆い隠したのち、緑の上着を羽織った彼は赤いマフラーを首に巻いて、ベッドに立て掛けていた銅の剣と木の盾に手を伸ばす。
ボロボロに錆び付いた剣と、擦り切れた盾を身につけ、青年は眠気を振り切るように扉から外へ出る。刹那、快晴の空から照り付ける日差しが、彼の視界を封鎖した。
「よぉ兄ちゃん。夕べはよく眠れたかい?」
「おかげさまで。……もうすぐ陸ですか?」
「あぁ。そろそろ見えてくる頃だぜ――ホラ」
そんな彼に声を掛ける、逞しい肉体と日焼けした肌が特徴の壮年の男性。黒い長髪を潮風に靡かせ、海原を見つめる青年に朗らかな挨拶を送った彼――この船の船長は、水平線の向こうを指差した。
その先には、微かだが小さな港町が伺える。数日に渡る船旅の、終わりが近づいていた。
「見えてきたろ? あそこが王国領の港町さ。あと三十分もすりゃあ着くから、準備しときなよ」
「はい、ありがとうございます。……すみません、ここまで乗せて頂いて」
「いいってことよ。……しかし兄ちゃんよ。剣の武者修行だか何だかで、大陸の外まで旅してたって話だが……そんな装備で大丈夫かい? 向こうに着いたら、ちゃんと装備も買い換えた方がいい」
「ははは、そうですね……考えてみます」
船長は、長髪に見合う美男子の横顔を眺めながら、彼が纏う貧相な装備に眉を顰める。今時、山賊でももう少しマシな装備で身を固めているだろう。そう、言いたげな眼差しだ。
言われるまでもなく、視線からその意図を感じていた青年は、苦笑いを浮かべて腰に差した鞘を撫でる。ギシリ、と軋む音を立てる銅の剣は、すでに耐用年数を過ぎているように見えた。
「やれやれ、わかってんのかね……。何にせよ、あそこに降りるんなら『連中』が来ないうちに済ませねぇとなぁ」
「連中……?」
そんな彼を、暫し心配げに見つめていた船長は――ふと、長年の人生経験から培った直感に基づく「危険要素」を「連中」と形容する。
その形容詞に要領を得ない青年は、何のことかと首を傾げた。
……答えが出たのは、それから僅か数分のことだった。
「……ん、あれは!?」
最初に反応したのは、長髪の青年。彼の目に映されたのは、素早く海上を渡る一隻の船。――だが、問題はそこではない。
黒一色の帆に描かれた、禍々しい髑髏の紋章。それを一目見れば、水平線の向こうで蠢く帆船の実態は容易にわかる。
「
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