第1話 海賊、グランニールの一味
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隙間。そこへ突き立てられた剣が、捉えた獲物の血を吸って行く。雨粒に混じる赤い濁流がその一点から噴き上がり、青年は声を絞る。
騎士として情けない悲鳴はあげまい。そのささやかな抵抗を、少年は無情に踏みにじった。
青年の背には、断崖絶壁。剣を交え、森や林を抜けた二人は、いつしかその先に待ち受ける奈落へ近づいていた。
終わることのない、永遠へ続く闇。そこへ、突き落とすように。
少年は接近と同時に、突き立てられた自分の剣を引き抜くため、足の裏を青年の胸に押し当て……強引に抜き去った。
そこから鮮血が噴き散らされ、青年の胸は紅に染まる。血の気を失った足がふらつき、崖を踏み外したのはその直後だった。
「帝、国……勇者ぁあぁああ!」
悔恨、怨念、憎悪、悲嘆。怒りとも、悲しみともつかない絶叫を最後に。血に濡れた青年は、奈落の果てへと消えていく。
「……」
その最期を、少年は感情が欠落した虚ろな瞳で見下ろしていた。闇だけを映した彼の視界は、彼自身の胸中を揶揄しているかのように、暗い。
踵を返し、豪雨に打たれながら森の闇に消えていく少年。血糊を流す雨粒が、赤色を帯びて地面に落ちる度、その色が彼に訴える。
――お前は今日も人を殺したのだ、と。
「……俺は」
そこから目を逸らすように、暗雲が立ち込める空を見上げる。天は少年を見放すように、絶えず彼の顔に雫を叩きつけていた。
「……結局、こんなことでしか……」
が細く呟く少年の眼は、この暗雲さえ飲み込まんとするかのごとく暗闇に濁り、薄暗い森の中を映す。そこへ踏み込んでいく彼の足は、迷子のように、覚束ない。
彼はひたすら、歩く。
手にした剣に染み付く血糊を、雨が洗い流す時まで。
◇
――私達が暮らすこの星から、遥か異次元の彼方に在る世界。
その異世界に渦巻く戦乱の渦中に、帝国勇者と呼ばれた男がいた。
人智を超越する膂力。生命力。剣技。
神に全てを齎されたその男は、並み居る敵を残らず斬り伏せ、戦場をその血で赤く染め上げたという。
如何なる武人も、如何なる武器も。彼の命を奪うことは叶わなかった。
しかし、戦が終わる時。
男は風のように行方をくらまし、表舞台からその姿を消した。
一騎当千。
その伝説だけを、彼らの世界に残して。
――それから、五年。男の旅路は、今も続いている。
◇
窓から差し込んでくる日差しが、青年の意識を現実に呼び覚ます。黒髪を掻き上げ、彼は揺れるベッドから身を起こした。艶やかな長髪が、その弾みで静かに揺れ動く。
気怠い面持ちで覗いた窓の向こうには、高く波打つ海原が広がっている。上体を支える両手の揺れは、微
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