断章 生還のグラディウス
最終話 王国勇者
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正にとっても、未だかつてない「不条理」であった。
そんな「不条理」を、人殺しを厭う温厚な少年が背負った結果。そのギャップから生まれた心の闇を「勇者の剣」に付け込まれ、王国に凄惨な爪痕を残すことになってしまった。
そこから始まった贖罪の旅の中で、王国を救い――王女の赦しを得た今。伊達竜正は、ようやく。
罪に塗れた今でも、帰れる場所に辿り着いたのである。
「……」
泣き腫らしながらも、しっかりと。
愛する男の顔が見たいと、懸命に顔を上げる彼女と、視線を交わす。
あの日と変わらない笑顔。それを目の当たりにして、フィオナはようやく実感するに至る。
彼は、ようやく、帰って来てくれたのだと。
「ゆう、しゃ、さま」
「ん。待たせて、ごめんな。……ただいま、フィオナ」
「……おかえり、なさい。勇者、様あぁあぁあっ!」
全ての感情が、奔流となり溢れ、爆発し、弾けて。フィオナは、皇女としての気高さも佇まいも全て捨て去り――ただの少女として、その胸へ飛び込んで行く。
羽を休めに来た鳥を、抱き締めるために。
◇
――私達が暮らすこの星から、遥か異次元の彼方に在る世界。
その異世界に渦巻く戦乱の渦中に、帝国勇者と呼ばれた男がいた。
人智を超越する膂力。生命力。剣技。
神に全てを齎されたその男は、並み居る敵を残らず斬り伏せ、戦場をその血で赤く染め上げたという。
如何なる武人も、如何なる武器も。彼の命を奪うことは叶わなかった。
しかし、戦が終わる時。
男は風のように行方をくらまし、表舞台からその姿を消した。
一騎当千。
その伝説だけを、彼らの世界に残して。
だが。
男の旅路は、まだ終わらない。
人類の希望たる、勇者としての使命を全うするまで。つまり――死ぬまで。
人々の笑顔を守るため、奴隷のように戦い続けていく。真の、勇者として。
しかし。
今は。
今だけは。
彼は剣を捨て、「人」の身と成る。彼を神と崇めず、「人」として愛する者達の傍らで。
そう。まるで、ただの人間のように。
勇者は暫し、羽を休めるのだった。
いつの日か再び。力無き人々を救うための旅へと羽ばたいて行く、その時まで……。
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