暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
断章 生還のグラディウス
最終話 王国勇者
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でか細い指を絡め、哀願するように祈りを捧げる彼女。その瞼が蒼い瞳を開いた時――

「よっ、と」

「――、え」

 ――テラスをよじ登る曲者が、視界の正面に飛び込んでくる。
 帝国城の最上層であるこのテラスまで、身一つで登ってくる体力も。その行動力も。何もかもが非常識で、衝撃的な侵入者だった。

 条件反射で衛兵を呼ぼうと、フィオナは咄嗟に口を開く。……が。
 その小さな口からは、音が微かに漏れる程度の声しか出ず……彼女は目を剥いたまま、立ち尽くしていた。

「……あ、なた、は」
「はは、壁登りなんて久しくやってなかったなぁ。あんまり楽しかったもんで、ついここまで来ちまったよ。――久しぶり、フィオナ」

 黒い髪と、瞳。たなびく赤いマフラーと、王国製の鎧。鋼の剣と盾。

 ――穏やかながらも、どこか凛々しい精悍な顔立ちは、あの日と見違えている一方で、確かな面影を残している。筋骨逞しい肉体に成長しても、体つきはまるで違っていても。
 その眼差しだけは、七年前から変わらない――少女が愛した、伊達竜正のものだった。

 思えば昔から、彼はあちこちに登ったり降りたりしては、自分や騎士団を困らせていた。あの日々と変わらない、少しだけやんちゃな彼が、そこにいる。

 驚愕と、ショックの余りの思考停止の期間を経て――彼女はようやく、突然に訪れた「再会」を理解する。
 自分が遠い青空を見つめ、途方に暮れている間に。彼はもう、こんなにも目の前まで来ていたのだ。
 ……こんなにも、驚かされることがあるだろうか。こんなにも、幸せな気持ちがあるだろうか。

「……もう、ここには来ない。それくらいのつもりで、旅に出た気でいた」
「……う、ぅうっ……」
「でもさ。やっぱり、帰って来ちまった。たぶん、俺に帰る場所があるのだとしたら、きっと『ここ』なんだと思う」

 目を伏せ、両手で顔を覆い、泣き崩れる彼女。手すりに腰掛け、そんな彼女を見つめる帝国勇者――伊達竜正は、暫し目を伏せる。

 思えば、この世界に来た時に初めて自分を迎えたのも、彼女だった。

 ――理由の如何を問わず、殺人を禁忌とする国で生まれ育ってきた少年にとって。この世界で過ごしてきた七年は、苦悩と苦闘の日々だった。
 確かに大量殺人とはいっても、彼の行いはあくまで「戦場で敵兵を殺した」ことに過ぎない。自分も殺されるリスクを背負っている以上、この世界ではありふれた事象であり、「普通」なら罪に問われることもない。

 だが、その理屈は互いが対等な「人間」である前提の上に成り立っている。神から超常の力を齎された「勇者」である伊達竜正に、当てはまる道理ではない。
 神の力を受けた身でありながら、その力で生身の人間を手に掛ける。それはこの世界にとっても伊達竜
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