断章 生還のグラディウス
最終話 王国勇者
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身を差し出す騎士はごまんといるだろう。
だが――その天上の地位にある彼女の権威を持ってしても、叶わぬ願いがある。愛する男との再会は、この時代の戦火が許さなかったのだ。
帝国の皇女フィオナの威光が如何に強大であれ、広大な大陸の中から人一人見付け出すことは、魔法の力が廃れた現代においては容易ではない。ましてや相手が、戦死したものと公に発表されている帝国勇者とあっては、捜索規模も限られてしまう。
帝国勇者の存命が確定したといっても、帝国に帰ってくる保証はどこにもない。彼が行方をくらましていた理由を鑑みれば、迂闊に公表して帰還が難しい状況を作ってしまう展開は避けねばならなかった。
ゆえにフィオナから出来ることは、もう何も残されてはおらず――こうして、愛する勇者の帰りを待ち続けるより他なかった。
一日千秋の想いを抱えて過ごした一年は、さながら永遠の時のようで――彼女は僅かな時間の中ですら、気の遠くなるような心境であった。
(……勇者様。フィオナのもとへは、もう戻れぬと……もう会えぬと仰るならば。せめて、最後に一度、どうかもう一度だけ……)
瞼を閉じ、青空の下で風を浴びながら――彼女はただひたすら、帝国勇者へと想いを馳せる。
この日々の中で、諦めかけたことは一度や二度ではない。何度も、この想いに終止符を打とうと決意しては――その猛るような愛情が邪魔をする。
忘れようと思えば思うほどに、その恋情は火を増すばかり。戦後からずっと変わらない、ただ一人の男への想い。
異国の王子。大陸外の有力者。絶世の美男子と名高い皇太子。どんな見合いを用意されても、それが揺らぐことはなく。
時を経てさらに、その想いは熱を増しているようであった。
――リコリスを救出し、奴隷商の頭目を打ち倒した後。風のように姿を消したという謎の騎士。
リコリスが無事であることも奴隷商の全員確保も紛れもない真実として報告されてはいたが、その騎士の実態だけは依然として不明なままであった。
だが、フィオナにはわかっていた。いや、彼女だけではない。
帝国勇者の存命を知る一部の有力者は、皆悟っている。
――帝国勇者が、ここまで来ているのだと。
目的が不明である以上、迂闊な対応はできないと静観を決め込んでいる勢力が大半であり、フィオナ自身も周囲の忠告を受けてその立場を取っている。
……が、何としてでも当人と接触し、帝国に連れ戻したい、というのが彼女の本音であることは誰の目にも明らかだった。
青空を仰ぎ、この空の向こうで繋がっていると、信じつつも。姿を見せない彼の心中が見えず、フィオナの胸は焦燥に締め付けられる。その苦悩のあまり、無意識のうちに瞼を閉じて視界という現実を封じてしまうほどに。
絶壁の胸の前
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