断章 生還のグラディウス
第6話 奴隷商との決戦
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な声を漏らす。彼がこの状況が現実のものとして受け止めたのは――投げ返されたブーメランが、右胸に突き刺さった時だった。
「ぐぎゃあぁぁぁあああぁあッ!」
「――あくびが出るな、この速さは」
右胸を抑え、うずくまるリーダー。その身に、容赦無く激痛が襲い来る。
……が、出血量はその傷には見合わないほどの少なさだった。だが痛みから逃れるべく、無理に抜こうとすると鮮血が噴水のように溢れ出る。
「い、いでえぇえ! ちくしょう、ちくしょおぉ!」
「無理に抜けば出血多量で今度こそ死ぬぞ。明日には、騎士団がお前達を検挙しに押し掛けてくる。それまで我慢しなさい」
「あ、明日!? それまでずっと、こうして刺されっぱなしでいろってのか!? じょ、冗談じゃねぇ! 助けろ、助けてくださいお願いします! もう悪いことしねぇからぁああ!」
「お前に痛めつけられた従者達も、そう言っただろうな。――ジブンは、殺しはしない。苦痛の果ての生還か、安楽な死か。それはお前が選べ」
「そ、そんなぁあぁあ!」
激痛にのたうちまわり、涙目になりながら命乞いをするリーダー。そんな彼を一瞥しつつ、ダタッツは階段を下りていく。
この戦いに、幕を下ろすため。
◇
「……! あ、ダタッツ! よかった、勝ったんだ! よかった……!」
ダタッツは洞窟の最奥である空間で、ぴょんぴょんと跳ね回るミィの出迎えを受けた。……しかし、ここでダタッツと対面したのは、彼女だけではない。
「――ダタッツ!? まさか、そんな……あなたは!」
「初めまして……でも、ないのかな」
驚愕の表情で、黒髪の騎士を見上げる桃色髪の美女。あの日と変わらないシャギーショートの髪が、騎士の微かな記憶と重なって行く。
ダタッツという名に衝撃を受けるあまり、殿方の前で肌のほとんどを晒していることも忘れ、彼女は両手で口元を覆い、歓喜の涙を零す。その現象に戸惑うミィは、「リコリス様どうしちゃったの!?」と不安げにダタッツを見上げた。
そんな彼女を安心させるように、ふわりと頭を撫でて――ダタッツは穏やかな眼差しで、あの日感じた「温もり」を見つめる。
(あぁ……フィオナ様。こんな、このようなことが……あって、よいのでしょうか。こんな、こんな……)
――リコリスは一年前、帝国勇者と思しき人物が王国に現れたという話をフィオナから聞かされていた。かつて伊達竜正という少年だった彼が、ダタッツと名を改めていることも。
その彼が王国騎士団から除名され、再び行方不明となったという報告が上がった時は、フィオナは深い哀しみに沈み、リコリス自身も胸を痛めていた。
フィオナとダタッツは、もう会うことは叶わないのか。――自分自身も、彼の健在な姿を見ることは叶わないのか。
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