暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
断章 生還のグラディウス
第3話 小さな勇気
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者様……人間である貴方様に祈ってしまう、私の弱さをお許しください……)

 ◇

 夜の帳が下り、月の光が地方都市に差し込んでくる。その輝きは鉄格子の隙間を縫い、ダタッツの牢屋にも差し込んでいた。

(取り調べの時間まで、あと少しか……)

 首を上に向け、その光を見上げるダタッツ。そんな彼の意識を、小さく響く足音が引きつけた。
 だが、音が伝わる方向へ目を向ける彼の前に現れたのは。

「君は……」
「あ、あの……夕ご飯です」

 帝国騎士の隊長――ではなく、リコリス親衛隊の一員であるポロだった。つぶらな瞳でダタッツを見つめる丸顔の少年は、鉄格子の隙間からおずおずとパンとスープを差し出す。
 そんな彼の姿に、騎士は微笑を浮かべて歩み寄る。敵意というものをまるで感じさせないその面持ちに、ポロは戸惑いの表情になる。

「ありがとう、頂くよ。ポロ、だったね。他の二人は一緒じゃないのか?」
「は、はい。カインとミィは夜の見回りをやっていて……あの、こんなことになってごめんなさい。隊長さんは話のわかる人だから、きっとすぐに釈放してくれます」
「そうなのか? それは助かるな。にしても、君は随分と優しいね」
「よ、よく言われます。でも、カインやミィにはいつも意気地なしって……」
「あはは、確かにあの子達からすればそう見えるかもな。でも、君が意気地なしだとはジブンは思わないよ。リコリスさんを攫った……かも知れない容疑者相手にご飯を持っていくなんて、大した勇気じゃないか」
「……」

 まるで友人のように、柔らかく接するダタッツ。そんな彼が悪人だとは、どうしてもポロには思えなかった。
 自分に気づかれないよう、巧妙に隠しているのか。そんな考えも過るが、目の前の屈託無い笑顔を疑うことは、少年の良心を深く苛む。

「でも、そろそろ家に帰った方がいい。きっとお母さんも心配してるよ」
「お母さんも、お父さんもいません。僕らはみんな、戦争で親をなくした孤児なんです」
「……すまない、余計なことを」
「いいんです。僕らみんな、生まれて間も無いうちに戦争が終わって、親の顔も知らずに育ってきたんです。僕らにとってのお母様は、リコリス様なんです」
「……君達はみんな、戦後に生まれて来たのか」
「はい。今ある平和は、自分達が生まれる前から頑張ってきた騎士様達のおかげだって、学校で習いました」
「……」

 無垢な少年の言葉に、ダタッツは目を伏せる。戦時中、「強さ」を履き違え略奪を繰り返す輩が絶えなかった帝国軍の騎士の醜態は、見るに堪えないものだった。

「王国騎士の人達も、戦争には負けたけど強くて勇敢な人ばかりだって教わりました。ダタッツさんも強いんですか?」
「そう胸を張りたいところだけど、ジブンは騎士団を辞めた身だし
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