暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
断章 生還のグラディウス
第1話 フィオナの苦悩
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 肉を断つ剣。その柄を握る手に伝わる、骨や内臓を裂いていく感覚。忘れられぬ感触が記憶に染み付き、少年の心さえ蝕んで行く。
 そしていつも、その悪夢の最後には。自ら手にかけた「父」の貌が現れていた。

「あ、あぁぅぁ、がっ、あぁ……!」
「勇者様! どうか、どうかお気を確かに! ここはもう戦地ではありません!」

 その幻覚と、魂への幻痛が絶えず少年に降りかかる。豪華なベッドの中でのたうちまわる彼には、常に一人の少女が寄り添っていた。
 十歳にも満たないほどの歳でありながら、桃色のシャギーショートを揺らして少年を宥める彼女の姿はさながら聖女のようであり、年齢を感じさせない凛々しさを漂わせている。

「気をしっかり持って! お願い、負けないで!」
「リコリス様、あまり近づかれては危険ですぞ! 乱心めされている勇者様の力で、突き飛ばされでもしたら……!」
「何を言っているのです! 我が帝国のために、こんな姿になるまで戦って来られた方なのですよ! あぁ、こんなにも心を荒ませて……!」

 少女の従者達は、そんな彼女を引き離そうとするが――少女は毅然とした表情で彼らを突き放し、なおも少年の手を懸命に掴む。

(なんという心の乱れ……。こんな勇者様のお姿、フィオナ様がご覧になればどれほど悲しまれるか……)

 この帝国に未来を齎すために、異世界から遣わされたという伝説の勇者。神の使徒とも云うべき彼が王国での遠征に心を病み、療養のために帝国へ送還されることになったのが数日前。

 以来彼は、帝都の手前であるこの地方都市で安静にする日々を送っていた。建物に囲まれた帝都よりは、自然の多いこの街の方が療養には適しているという理由だ。

 だが、窓から外を見れば豊かな森が広がるこの邸宅の中に居ても、勇者だった少年の心に安寧が戻る気配はない。そればかりか、彼を蝕む悪夢は日を追う毎に、色濃くその魂を暗黒に染めようとしていた。

 ――それはまるで、「呪い」のように。

「……異世界から無理矢理に呼びつけ、縁もゆかりも無いこの国のために戦わせ……こんな姿になっても、誰一人崇め、縋るばかりで手を差し伸べない。……ありますか、そのような勝手な話が」
「リ、リコリス様……」
「フィオナ様もそのことでずっと、気に病んでおられました。私も同じです。――勇者の伝説は、あくまで伝説。今ここにおられる殿方は、私達のために身命を賭して戦われた『人間』ですわ。でなければ、今のお姿に説明がつきません」

 その「呪い」に周囲の誰もが慄く中。誰もが肌で感じる狂気を間近で浴びながら、それでもなお、少女は臆することなく手を握り続ける。超常の力を持っている、「人間」の手を。

「……そう、人間。人間ですわ。あなたは、誰が何と言っても人間。フィオナ様が慕わ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ