断章 生還のグラディウス
第1話 フィオナの苦悩
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
なかった。
(――勇者様。かつて戦場にてあなた様に救われしこの命。ここで使い果てるやも知れませぬ。どうか、ご容赦を)
◇
――帝国と王国の運命を分けた大戦から、七年。戦後、という言葉が似合わないほどに平穏を取り戻した帝都に、地方令嬢が誘拐された事件が知らされたのは三日前のこと。
帝都からやや離れた、のどかで活気のある地方都市。帝都を目指す遠方からの行商人や使者から、中継地として頻繁に利用されるその街には、美しい領主の娘がいた。
リコリスという名の彼女は、領民である都市の住民達からも慕われる人柄であり――地方令嬢の身でありながら、雲の上の存在である皇女フィオナの幼馴染でもあった。
戦時中。王国への遠征から帰って来た帝国軍への慰安を務めた地方都市への視察をきっかけに、身分を越えて知り合った彼女達は同い年であることから意気投合し、出会ってからの日々を親友として過ごしてきた。
――だが三日前、久方ぶりのお茶会の帰りの馬車が行方不明となる事件が発生。その翌朝、急遽編成された捜索隊は破壊された馬車と瀕死の重傷を負わされた従者達を発見した。
この近辺で暗躍している――と噂されていた奴隷商の仕業と当たりをつけた帝国騎士団は、約二百名の特捜隊を結成。法で禁じられた奴隷商を陰ながら続行する悪人をいぶり出すべく、捜索を開始していた。
――大陸を統べる強者たる帝国の者であるなら。弱き者を隷属し、売り払っても蹂躙しても構わない。そのような「強さ」を履き違えた者達を食い止めるため、三十年以上も昔から奴隷禁止法は制定されていた。
だが、容易に多額の金が手に入る奴隷商を、強欲な人間が手放すはずもない。現皇帝の手で奴隷商が違法化された昨今も、狡猾に「金目」になる人間を狙う輩は後を絶たなかった。
そんな無法者を駆逐する使命を帯びている帝国騎士団としては、皇女の友人を攫われたという事態はすでに類を見ないほどの不祥事であった。
そのため、事を大きくしたくない――という軍部の主張とリコリス自身の貴族的身分がそれほど高くない事実が重なり、特捜隊の規模は最小限のものとなってしまった。
その苦境に苛まれながらも――特捜隊隊長レオポルドは己が使命を果たすべく、部下達を連れて帝都を旅立って行く。
主犯格がいる可能性の最も高い――地方都市と帝都を繋ぐ道を目指して。
「隊長、現時点で判明している情報ですが……」
「何か新しい発見はあったか」
「はい。地方都市の住民が、闇夜に紛れて蠢く数十人規模の集団を、三日前の夜に目撃していたとのことです。報告によれば、その中には王国製の鎧を着た者がいたとか……」
「王国製、か」
「えぇ。もし事実なら国際問題に――」
「――短絡的にも程があるわ馬鹿者。本当に王国騎士の仕業
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ