暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
断章 生還のグラディウス
第1話 フィオナの苦悩
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ど……!」
「皇女殿下のお気持ちも確かなものと存じております! ――しかし、皇族に名を連ねるお方ならばなおのこと! より多くの臣民への影響を顧みて頂かなくてはなりませぬ!」
「……!」

 皇女殿下は、確かに皇帝に次ぐ権威を保持している。だが、それはあらゆるものを際限なく左右できることには結びつかない。
 むしろその重責ゆえ、厳重な縛りの中に生きねばならない、いわば籠の鳥なのだ。

「……我々帝国騎士団の采配に、どうかご容赦を。万一の時はこの首を貴女様に献上し、リコリス様への供養とさせて頂く所存です」
「……あなたの、首など誰も欲しがりはしません。私も、リコリスも。……必ず、彼女を救い出してください。私から申し上げることは、もうそれだけです」
「必ずや。このレオポルドの身命を賭して、騎士の本分を全うします」

 そのやり取りを最後に、焦げ茶色の髪を靡かせる壮年の騎士は、踵を返して白いマフラーを揺らし、執務室を立ち去って行く。何の力も持たず、ただ親友の無事を祈るしかない皇女は――窓から伺える青空に、祈りを捧げるより他なかった。

「リコリス……あぁ、どうか……無事でいて」

 縋るように、祈るように。膨らみというものがまるで感じられない、平らな胸の前でか細い指を絡め――彼女は蒼い瞳を揺らし、その肩を震わせる。

(勇者様……)

 そして、いつものように。儚い想いを、自身とこの国の英雄に捧げるのだった。

 ◇

「隊長! 皇女殿下は……!?」
「――かなり、リコリス様のことで気を病まれているようだった。生死問わず結論を急がねば、さらに体調を崩される恐れもある」
「生死問わず――って、それでは隊長が!」

 執務室を出たレオポルドを、若い騎士が出迎える。髪と同じ色の口髭を撫で、皇女殿下が佇む扉の向こうを見つめる彼に、部下は青ざめた表情で詰め寄った。

「……件の誘拐事件から、もう三日。最悪の事態も想定に入れて行動せねばなるまい。その時は、この首を差し出す他には責任の取りようもないからな」
「しかし!」
「私の進退に構う暇があるなら、草の根分けてもリコリス様を見つけ出せ」

 だが、レオポルドは顔色一つ変えずに踵を返し、煌びやかな廊下を歩き始めて行く。その後ろに続く部下には、一瞥もくれず。

「――感情に任せて生きているうちは、出世は望めんぞ。私が空けた席に座れるのは、生き恥を晒してなおも戦い続けられる強かさを持つ者だけだ」
「隊長……」
「如何なる結果になろうとも、我々はただ己の使命を全うするのみ。それが強者たる帝国騎士団に名を連ねる者達に課せられた、不動の使命だ」
「……ハッ!」

 若き騎士には、その生き様を否定する力はない。その背に続き、彼を死なせぬ戦いに身を投じるより、他は
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