断章 生還のグラディウス
第1話 フィオナの苦悩
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れておられたのは、人間のあなたですもの」
「う、ぅ……」
「だから今は、どうか安らかにお眠り下さい。私が、決して独りにはさせません。フィオナ様に、そう誓いましたの」
敬愛すべき皇女にして、親愛を寄せる親友でもあるフィオナ。その儚げな貌を思い浮かべる少女は、滝のような汗をかきながら、ようやく落ち着きを見せ始めた少年の手を握り締める。
白い柔肌を剣ダコだらけの手に重ね、労わるように撫でる。その傷だらけの手を見つめる彼女の瞳が、憂いに揺れた。
「……こんなに傷だらけになって……。何が無敵の勇者。何が帝国の守護神。私達に祀られたせいで、この人は……」
そして、許しを乞うように。その手の甲に頬を摺り寄せ、頬を伝う雫をその場所へと導いた。
「神よ。彼をこの世界に遣わした、神々よ。貴方様が、自らの使徒に救いを齎さぬと仰るのであれば――我々が、その救いを齎します。ですからどうか……どうか無力な我らに、御加護を……」
その決意に満ちた瞳を、眠りに沈む少年に注ぎ。少女は、彼の手を自分の両手で包みながら、神への祈りを捧げる。
――だが、その祈りが神へ届くことは叶わず。この数日後に回復に向かった勇者は、当初の予定に反して戦線に復帰。それから間も無く、悲運の戦死を遂げることとなる。
突き付けられた結末に悲嘆した彼女は、それでも自分以上に追い込まれたフィオナを慮り、胸のうちに悲しみを封じて――遠征軍の慰安に奔走することとなる。
戦後まで生き延びた戦士達の命を次代へ紡ぐことこそが、彼の命に報いる術であると信じて。
――それが、七年前のことであった。
◇
「どうしてですか……!? なぜ、この程度の規模しか動かせないのです!」
「皇女殿下。その心中、さぞお苦しいものと御察しします。……が、リコリス様はあくまで地方の領地の出。その家格に見合った人数としては、これでも破格なものなのです」
「そんな! リコリスは、リコリスは私の大切なっ……!」
帝国城の、とある上層の執務室。その絢爛な室内においてなお、際立った輝きを放つ特徴の椅子に腰掛ける銀髪の皇女が、真紅の鎧を纏う帝国騎士に言い募る。
大陸の大部分を支配している一大国家の帝国、その頂点に君臨する皇族の子女。誰もが逆らうことを許されず、下々が声を掛けることすらも憚られる絶対の存在。
それほどの大人物を前に、騎士はいつ一族郎党残さず首が飛ぶかわからない――という状況に冷や汗をかきつつ。それでもなお、伝えねばならないことを伝える義務に殉じていた。
「皇女殿下。貴女様がリコリス様と懇意の仲であることは、我々とて周知のこと。しかし一介の地方令嬢のために、これ以上の騎士を動かしては周辺諸国に無用な隙を見せることにもなりかねないのです!」
「けれ
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