第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第45話 王国の夜明け
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そして、勇者の剣の柄に、自然と手が伸びて行く。その掌に、妖刀を握るために。
父への想いを何より重んじる彼女は、闇の誘いに促されるまま。憎しみに囚われる自分を、肯定しようとしていた。
『サァ、ワレヲツカエ。ソシテ、フクシュウヲハタセ……』
ダイアン姫やバルスレイが、外から叫び続けているが――もはや、誰の声も少女騎士には届かない。彼女は、彼女自身の意思で、剣を握ろうとしている。
(でも……父上は、オレに……)
だが。父への愛情は、ロークに過去の記憶を蘇らせて行く。それは、自身に付けられた名の由来。
父が成せなかった、騎士の理想。そして――娘に託した願い。
「父上……ごめん」
それに、辿り着いた瞬間。勇者の剣に伸びていた手は、動きを止め――彼女の眼差しが、闇を貫き。
「はぁあぁああッ!」
弧を描くように振るわれた短剣の一閃が、彼女に纏わり付く闇を一掃するのだった。
『……ナゼダ! ナゼヤドリギニナラヌ! ワレヲコバメルモノナド、イルハズガ!』
「父上は願った。ダタッツは信じた! オレは、本当の騎士になるって!」
『ナラバ、ケンヲトレ!』
「いいや、取らない。オレが騎士になるには、強くならなきゃいけない。お前なんかに甘えない、本当の強さが必要なんだっ!」
そして、高らかに宣言する。自分は決して、憎しみになど染まらない。勇者の剣の呪いになど、屈しないと。
そう。彼女は打ち勝ったのだ。
当代の勇者でも、勇者の末裔でも敵わなかった、「自分」という天敵に。
『――オノレ! ヤドリギサエアレバ、ヤドリギサエアレバ……!』
そんな少女騎士の、毅然とした態度を前に。闇は、人の形になると――逆上したかのように猛り狂い、彼女の喉首を両腕で吊るし上げた。
「あ、がっ……!?」
『ワレニシタガエ。ワレヲウケイレロ! オマエハヤドリギダ、ワレノ――!?』
そして、もがき苦しむロークに服従を迫るが――その言葉が最後まで続くことはなかった。
『ア、アァアァア! キエル! ワレガキエテイク! ワレガァァアア!』
次いで、絶叫と共にのたうちまわり、人の形が溶けるように崩れて行く。そんな闇の後ろでは――
「ヴィクトリア……様ぁ……」
「……よく、戦ってくれた。素晴らしかったぞ、ローク」
――ヴィクトリアが父の形見で、勇者の剣を粉々に粉砕していた。その瞳は、憎しみも怒りもなく――青く澄み渡る空のように澄んでいる。
彼女の眼差しは、苦悶の声を上げて消滅していく闇を、哀れむように見つめ続けていた。
「……この黒い影は、私の未熟な心が生んだ――私という人間の正体なのだろう。先に、地獄へ沈むがいい。いつの日か、私も相応の報いを受ける……」
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