第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第44話 ダタッツ剣風
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「よく生きていられたものだな……。確実に仕留めたと思っていたが」
「……守ってくれたのさ。この国の人が」
「なんだと……?」
再びヴィクトリアと相対するダタッツ。
十字に刻まれた胸に掌を当てる彼の言葉に、勇者の末裔は眉を吊り上げた。王国人から蛇蝎の如く忌み嫌われるはずの彼が、王国人に守られるなど、到底信じられないからだ。
だが、ダタッツは嘘は言っていない。彼の命を紙一重で現世に繋ぎ止めるために犠牲となった、予備団員の鎧と盾は――紛れもなく、王国人の寄付によるものだからだ。
「そうだ。守ってくれたんだ、ハンナさんが!」
「バカな……!」
「ジブンは独りじゃない。例え、この国の中であっても。ジブンが今も戦っている理由なんて、もうそれだけで十分だ!」
「……!」
あらゆる闇も負の感情も、突き抜けてしまいそうな――真っ直ぐな瞳。その眼差しに真っ向から射抜かれ、ヴィクトリアは目を剥く。
彼の眼が、似ているからだ。かつて、自分が追い求めた父の姿に。
黒髪の騎士の手にある、今は亡き名将の両手剣。その刀身を見つめ、ヴィクトリアは父の姿を思い浮かべる。
彼女の脳裏には今、父が遺した言葉が――憎しみに囚われてはならないという教えが過っていた。
(父上、私は……)
勇者の剣に囚われた今もなお、その心の奥底に封じられた良心は、確かに息づいている。闇の中から、救いの手を求めるように。
『チガホシイダロウ! ニクイダロウ!?』
「あ……ぐ、あぁああッ!」
だが、その微かな善の心も――勇者の剣は容赦なく飲み込もうとする。逆らうことを許さない呪いの圧力に、ヴィクトリアは苦悶の表情を浮かべ、片手で頭を抑え込む。
「ヴィクトリア……!? 一体、どうしたというの!?」
「ヴィクトリア様……!」
「呪いの影響なのか……!? ダタッツより遥かにダメージは浅いはずなのに、あの苦しみようは……一体……」
「――勇者ダタッツがアイラックスの剣を持ち込んでから、随分ヴィクトリアの様子が変わっている。ヴィクトリアよ、やはりお主にはまだ、人の情が……」
その光景に、戦いの行方を見守る人々は揃って緊迫した面持ちを浮かべる。この場にいる人間全てが、ヴィクトリアの変化に気づいていた。
(許されぬとでもいうのか、父上。あなたの仇を討とうとすることが、そんなにいけないことなのか!)
自分の胸中に渦巻く人間としての情と、呪いに促された憎しみの炎が、絶えず絡み合い、争い合う。
それほどまでに己の心が乱れている理由は――自らの行いへの自覚と。直に戦った帝国勇者の人柄にあった。
正気を完全に失わせるほどに呪いが強ければ。帝国勇者が血も涙もない冷血な男だったならば。
こんなにも、苦しい気持ちになど
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