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ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第44話 ダタッツ剣風
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人々の平和のために戦わねばならない責任と引き換えに――超人の力を持っているのだから。
 そして今まさに、伊達竜正は。その責任を、果たさんとしているのだから。

 この世界にただ一つ残る、魔の物を屠ることで。

「あ、あぁあぁああァッ!」

 ゆえに。勇者の剣の刀身は、螺剣風の直撃によりさらに亀裂を広げられ――やがて限界を迎え、なまくらの如くへし折られてしまう。
 ヴィクトリアが風に飲まれ、遥かな夜空へと舞い上げられたのは、その直後だった。

「わぁあッ!」
「きゃああぁあッ!」

 鎧に全身を固めた彼女を、容易に吹き飛ばす激しい風。
 その余波は周囲にも及び、ダイアン姫達は自分達も吹き飛ばされないよう、瓦礫や柱に掴まり、懸命に堪えていた。その風に抵抗できる力を持たない国王の身体は、老いてなお堅牢な肉体を保っているバルスレイが保護している。

 さらに、この風は王宮の最上階を中心に――そよ風として、城下町にも及んでいた。その町中から、王宮を見つめ続ける少女の頬を、吹き抜ける風が撫でる時。

「……(けん)の、(かぜ)……」

 自らが慕う騎士の技が生んだ風を思い出し――彼女は頬を濡らして、呟くのだった。
 直感したからだ。この風と引き換えに、あの人は命を削っているのだと。

 そして。

 夜空の彼方から。流れ星の如く舞い降りたヴィクトリアの身体が、鎧で空を切る轟音と共に墜落する瞬間。

「く、あぁあッ!」

 片腕のまま、弾かれるように飛び出したダタッツは、彼女の落下地点に倒れ込むと――自分の身体を緩衝材として使い、ヴィクトリアの身を墜落の衝撃から守り切るのだった。
 うつ伏せに倒れた彼の周囲に広がる亀裂が、その衝撃の威力を物語っている。

 それから数秒の間を置いて――ヴィクトリアと共に風で舞い上げられていた両手剣と、折れた勇者の剣が落下してくる。
 その二本が床に突き刺さる時。

 この場にいる人間全てが、ついに悟るのだった。

 ――もう。戦いは、終わったのだと。

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