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ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第44話 ダタッツ剣風
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彼の意志に応え、剣士としての己の全てをぶつける。根源にある動機が憎しみであっても、そうでなかったとしても。
 全力には全力で応える。その、一剣士として絶対に破ってはならない矜恃だけが、今の彼女を突き動かしたのだ。

 自分の中にある正義が正しいかどうかを、この一閃に、委ねるように。

「帝国式、投剣術――奥義ッ!」

 ある意味では、助けを求めているようにも見える。そんなヴィクトリアの想いを乗せた一撃が生む、鎌鼬を前に。
 ダタッツは火を吐くが如く、雄叫びを上げ――大きく上体を捻る。まるで、弓を引き絞るかのように。

「……負けんなよ。負けたら許さねぇぞ。……ダタッツッ!」

 その瞬間。小さな少女騎士は、懸命に勇気を振り絞り、精一杯のエールを送る。父の仇を好きになってしまうという、恐れを振り切り。
 今、自分達を守るために戦っている彼に――素直な気持ちを伝えるために。

「勇者ダタッツよ――最後にもう一度! 今一度! この国に、光を!」
「……こうなるしか、ないというのか!? ならば――生きろ、ダタッツ! 勝って、生き抜くのだッ!」

 国王とバルスレイも、ダタッツが握る両手剣に祈りを捧げる。黒髪の騎士が、ヴィクトリアの放つ鎌鼬に打ち勝つと――信じて。

 ――そして。

「……螺剣、風ゥゥウゥウッ!」

 弾けるように突き出された右腕は、螺旋を描いて唸りながら――握り締めていた両手剣を撃ち放つ。雄々しく猛る一角獣の幻影を、その刀身に纏わせて。
 刹那。ダタッツの右腕は剣の動きに釣られるように、本来の関節ではあり得ない方向へと捻れていく。そして――剣が手から完全に離れた頃には、すでに彼の右腕は鮮血を撒き散らし、主人の体からネジ切れていた。

 一方、放たれた両手剣は。

 矢という比喩に収まらない――さながら、砲弾のような轟音を上げ、猛烈な回転と共に突き進んで行く。全てを薙ぎ払う突風を纏って。

「ぬっ――お、ォォォォオオォオオッ!」

 その圧倒的な力に、ヴィクトリアは弐之断不要の一閃を以て、真っ向から立ち向かう。鎌鼬を蝋燭の火の如く吹き消し、勇者の剣に迫る両手剣を、彼女は恐れることなく受け止めた。
 その圧力はヴィクトリアの足元に亀裂を走らせ、鎧を軋ませる。一瞬でも油断すれば瞬く間に飲まれてしまいそうな風を浴び、彼女は懸命に堪え――叫ぶ。

 だが。

「風よ――吹けぇえッ!」
「ぐぁ、アァアァアアァァッ!」

 隻腕となったダタッツの叫びとともに、ヴィクトリアの力は剣が生む旋風にねじ伏せられて行く。
 いくら勇者の剣を使っていようと、使い手は勇者の血を引いている生身の人間。迷いを捨た純血の勇者が、真に全力を込めて放つ一撃の前では、限界がある。

 異世界の勇者は、
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