第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第42話 想い
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王家の剣を上段に構え、ダイアン姫はヴィクトリアを鋭く見据える。その瞳の色には、迷いを感じさせるような濁りは微塵もなく――決意に満ちるように、澄み渡っていた。
自分がこの国を離れる前とは、比べものにならないほどの胆力を身に付けた彼女を前に、ヴィクトリアは彼女の師として目を見張る。これほどまでに成長していたとは、予想だにしていなかったのだ。
「……驚きました。まさか、これほどまでに気勢を高められるようになっていたとは」
「……」
「――ですが。私を超えるには至らない力です。姫様、今ならまだ引き返せます。剣をお納めください」
「剣を納めて……どうなるというのです、ヴィクトリア。この国の民と大地を血に染めようとする、今のあなたの行いを――見過ごせというのですか。わたくしは、そんなことをあなたに教わった覚えはありません」
邪気に魅入られたヴィクトリアの面持ちには、まだ微かに……かつての彼女の面影が残されている。その瞳を見つめ、ダイアン姫は彼女と過ごした日々を思い返す。
『姫様、剣の稽古に参りましょう!』
『だ、だけどわたくし……剣など、握れません。女に、剣なんて……』
『私も女だてらに、剣を嗜んでおります。いざという時の護身術くらいなら、私でも教えられますし、姫様なら絶対に身に付けられます!』
『そ、そう……でしょうか……』
『姫様なら出来ます! 絶対に! ……もう、これ以上。何も失ってはならないのです、姫様!』
戦後から数年が経った頃。彼女は母を失い意気消沈していた自分を、強引に剣の稽古に連れ出し、身の守り方を教えるようになった――。
終戦直後は、彼女の方が沈んでいたというのに。それでも自分を奮い立たせ、騎士の本文を全うするために立ち上がろうとしたのだ。当時、剣の握り方すら知らなかった彼女に、護身術としての剣技を教えることで。
『うわぁあん! 痛い、痛い……!』
『泣いてはなりません、姫様! こんなところで躓いていては、自分の身など守れはしません! 私達が帝国の凶刃に倒れた時、御自身をお守りするのは、その手に握られた剣だけなのですよ!』
『そんな……そんなの無理、無理ですっ……』
『姫様!』
――無論、ダイアン姫は容易に今の強さに辿り着いたわけではない。稽古を始めてから三年間のうちは、痛みに泣き喚いてヴィクトリアを困らせるばかりだった。挫けてしまい、逃げ出そうとした日もある。
だが――自分に逃げられ、独りになっても懸命に修行に励む彼女の姿を見る度、ダイアン姫は必ず帰ってきた。雨に打たれても、猛暑や吹雪に晒されても、休むことなく自分のために鍛え続ける彼女の背中に、惹かれている自分がいたから。
そして、終戦から六年の年月を経た今。ダイアン姫は己が学んだ技の全てを、師にぶつけるべく――
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