第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第42話 想い
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ていく。覚めることのない、眠りへと。
――沈んでいく。
寸前のことだった。
(……?)
永く眠ろうとしていたダタッツの耳に、何かが落下してくる音が届く。瓦礫とは全く違う、その風を切る音色が――彼の意識を僅かに現世に繋ぎとめていた。
(……!)
それから僅かな間を置いて。ダタッツは、気づいてしまう。
これは――剣が落ちる音だと。
「……ッ!」
そして、反射的に顔を上げる彼の眼は。
――地に墜ち、粉々に砕けた王家の剣を目撃する。
(ダイアン姫……!)
その光景が意味するもの。それを察したダタッツは、自分の体の芯から広がる、えもいわれぬ熱さに戸惑いを覚えていた。
死んで楽になりたい、何もかもどうでもいい。そんな人間であるはずの自分がなぜ――こんなにも、熱くなっているのか。
なぜ、無力な自分に怒っているのか。
(……俺、は……)
その答えは――瓦礫の中で彼が無意識に握り締めていた、剣の柄にあった。
かつて自分を救おうと懸命に戦い、命を落としたアイラックス。その魂が宿る両手剣に伝わる熱が、眠ろうとしていたダタッツの心を突き動かしていたのだ。
(そうか……それでも、俺は……)
ダタッツの胸に残された熱気。それは――誰かを救いたいという想い。
家族に会う道を絶たれ、償うことも死ぬことも許されず、責められ続けてきた人生であっても。自分が醜い人間だと思い知らされても。
それでも捨てきれない、ダタッツ――否、伊達竜正という人間の根幹。それがまだ生きているからこそ、彼の手にはアイラックスの剣が握られているのだ。
己の命を差し出すことさえ厭わず、子供達の未来のために逝った、あのアイラックスのように。
(まだ……寝られない。まだ冷めない熱が、残っているのなら。俺は、まだ……!)
それに気づいた彼は、もう立ち止まることはない。罪から逃れるために、己の命を軽んじることもない。
ただ想うままに。人々を守るために剣を振るう。それが、勇者ダタッツとしての在り方であるならば――。
「まだ……止まらない。止まれないんだ!」
その叫びと共に。彼を押さえつけていた瓦礫は弾けるように四散し、周囲に飛び散って行く。だが、凄惨な戦場と化したこの王宮内には、もう騎士はほとんど残っていない。
いるとすれば王宮の外か――あの最上階か。
「……」
「彼女」が待つ戦場を見上げ、ダタッツは両手剣の柄を握りしめる。もはや、その眼には寸分の迷いもない。
(泣き言も弱音も、吐けるだけ吐いた。……行こう。皆が、待っている)
激しく傷付いた今の体では、本当に全力を出したとしても勝てるかはわからない。だが、不思議と彼の胸中に不安の
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