第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第41話 十字の傷
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ついに戦いの場は、国王の寝室にまで流れてしまった。変わり果てたヴィクトリアの姿に、この城の君主は沈痛な面持ちを浮かべている。
「……そうか。やはり、ヴィクトリアはダタッツ殿の言うとおり……」
「陛下。暫しお待ちを……。今、この国に取り入ろうと目論む賊を成敗しますゆえ」
「必要ない。……と言ったところで、お主は聞かぬのだろうな」
主君である国王には目もくれず、ヴィクトリアはただ憎しみだけに染め上げられた眼光で、ダタッツを射抜いている。一方、ダタッツはこの場で戦うことになってしまったことに、焦りを募らせていた。
(なんということだ……! まさか、国王陛下の御前にまで流れてしまうなんて! とにかく、急いで戦場を移さないと、陛下の身が危ない!)
ここで戦うことがどれほど危険か。それがわかっているがために、黒髪の騎士は平静を欠いていた。
下手に動こうとすれば、ヴィクトリアは必ずその隙を突いてくる。それをかわしたとしても、ダイアン姫のように危害が国王に波及する恐れがある。
病床の国王に戦いの余波が及ぶようなことになれば、どういうことになるかは――想像に難くない。
最も確実に国王を守るには、敢えてこの場でヴィクトリアに隙が生まれるまで戦うしかない。その結論に至ったダタッツは、意を決して正規団員の剣を構える。
しかし、虎の子だった飛剣風「稲妻」をかわされた彼の胸中は憔悴し始めており、顎からは絶えず汗を滴らせていた。
(やはり……この技しかないか)
飛剣風「稲妻」を避けられた今、決め手となる手段は一つに絞られた。そう判断した彼は――帝国式投剣術奥義「螺剣風」の構えを取る。
ダタッツの構えの変化に気づいたヴィクトリアは、相手の面持ちから次の攻撃が正念場であることを悟り、眼の色を変える。
そして再び剣を上段に振り上げ――弐之断不要の体勢になるのだった。
「……来い」
「ああ、行かせてもらう。……陛下、しばしお待ちを。すぐに、終わらせます」
「――うむ。信じよう」
あるがままを受け入れる。そう決心していたのか、国王は眼前で危険な戦いが繰り広げられているにも拘らず、あくまで冷静に二人を見守っていた。
そして。
「ハァ、ハ、ハァッ……お、お父様ッ!」
「帝国勇者! ヴィクトリア様ッ!」
ようやく二人の猛者に追い付いたダイアン姫とロークが、息を切らせてこの場に駆けつけた瞬間。
「――ぉおぉおおぉッ!」
「――はぁあぁああッ!」
まるで、それが引き金であったかのように。
螺剣風と弐之断不要は、双方の想いを乗せて――激突した。
激しい衝撃音が、王宮から響き渡り――夜空へと轟いて行く。その轟音は……王宮内に留まらず、城下町にまで波及していた。
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