第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第41話 十字の傷
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「な、なんだ……今の? 王宮の方から、何か凄い音がしたような……」
「おい、ハンナ?」
この日の復興作業を終えた大工達が、夜の城下町で飲んで騒いでいる頃。突如彼らの耳に届いた不自然な衝撃音が、どよめきとなり広がっていく。
そんな彼らと共に過ごしていたルーケンとハンナも、同様だった。何事かと戸惑うルーケンを他所に、ハンナは不安げな面持ちで王宮の最上層を見上げる。
あそこで何かが起きているという、直感だった。
(ダタッツさん……)
あの日、自分達のために戦ってくれた彼を想い。少女は胸の前に指を絡ませ、その無事を祈る。
――だが。
その祈りは、届かなかった。
「ぐ……あがッ!?」
鎧を紙切れのように切り裂く、弐之断不要の余波が生む鎌鼬。その空を裂く一閃を受けたダタッツの胸は縦一文字に斬られ、鮮血を噴き出していた。
その光景にダイアン姫とロークは短い悲鳴を上げ、ヴィクトリアは口元を吊り上げる。国王は……沈痛な面持ちで、それでもダタッツを見守り続けていた。
「な、なぜ……なぜ螺剣風が負けたのです!? 速さでは弐之断不要を上回っていたはず……!」
動揺を露わにして、ダイアン姫は眼前の状況を凝視する。技の出は、明らかにダタッツの方が速かった。なのに後出しの弐之断不要が、勝負を制している。
その謎の答えは――ヴィクトリアの後方に開けられた、巨大な風穴と。勇者の剣の柄についた、微かな傷にあった。
穴の中心は、僅かに彼女とダタッツを結ぶ直線から外れている。つまり――螺剣風の狙いが僅かに逸れ、掠った程度のダメージしか与えられていなかったのだ。
そう。螺剣風は、紙一重で外れていたのだ。
本来ならばあり得ないようなミス。先程の飛剣風「稲妻」の時と言い、明らかに本調子ではない。
(やはり、ダタッツ様は……!)
(くッ……どうしたんだ、俺は……!)
その原因は本人すら理解していない――が、今が途轍もなく劣勢であることだけは、誰の目にも明らかだった。
胸を押さえ、膝を着くダタッツに、ヴィクトリアは静かに迫る。血を求める勇者の剣の呪いに、導かれるがまま。
(わ、わたくしは……わたくしは……!)
その状況を前に。ダイアン姫は咄嗟に回復魔法を使おうとして――発動寸前のところで停止した。緑色の輝きが、風前の灯のように消えていく。
……まだ、葛藤があったのだ。ダタッツに心を許すことで、自分の全てを捧げることに。
そして。その躊躇が、さらにダタッツを追い詰めて行く。
「いかん……ダタッツ殿、ここは一旦引くのだ! 今、これ以上戦っては傷が開くばかりであるぞ!」
「やめてくれよ! ヴィクトリア様っ!」
ヴィクトリアに対し、本来あるべき姿を知る
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