第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第38話 弐之断不要の威力
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月明かりに照らされた、王宮に続く道の中で。
「やはり……彼が危惧した通りになってしまったか」
「……」
帝国騎士の頂点と王国騎士の頂点が、互いに眼差しで火花を散らし、対峙していた。その一騎打ちを見守るダイアン姫は、姉であり師でもあったヴィクトリアの姿に、悲しげな表情を浮かべている。
「ヴィクトリア……わたくしの言葉がわかるなら、剣を収めて!」
「……姫様。危険ですので、お下がりください」
だが、勇者の剣に囚われた彼女の心に、その言葉は届かない。既に悪しき力に魅入られている彼女は、冷たく突き放すような声で、主の呼びかけを拒む。
人のものとは思えぬ程の殺気を浴びるバルスレイは、その様子から勇者の剣が持つ呪いの威力を垣間見た。従うべき主君の嘆きさえ、届かなくなる程の激情。
それを引き出す、勇者の剣の呪いの強さを。
「……貴殿の手にある剣のことは、我が帝国の勇者から全て聞いている。御身が、抗えぬ感情に支配されていることも」
「……」
「だから、問うのはこれが最後だ。――その剣を、捨てる気は無いか」
その問いかけに――ヴィクトリアは黒の長髪を靡かせ、剣で答えた。
瞬く間に放たれる、勇者の剣の一閃によって。
「――そうか」
鋭い眼差しでその閃光を見切り、バルスレイは再び剣で受け止める。
「帝国式闘剣術――朱鳥ッ!」
間髪入れず反撃に出るが――彼が下段から放った刺突は、空を貫いていた。
すでに彼女は間合いを取り、バルスレイの攻撃範囲から逃れていたのだ。その一瞬の判断力と、それを実行できる彼女の力量に、老将は感嘆の声を漏らす。
「……なるほどな。帝国騎士達が、教えを乞いたくなるはずだ」
「……」
天賦の才能。それを殺さぬ努力。全てが合わさり、ようやく辿り着ける境地。それがヴィクトリアという剣士なのだと、バルスレイは改めて実感する。あのアイラックスの、娘なのだということも。
さらに今の彼女には、勇者の剣により戦意を激しく煽られ、本来以上の戦闘力を発揮している。もはや、人間の枠に収まる力ではない。
――本物の勇者にも劣らぬ、超人なのだ。
(だが、だからこそ――この前途ある騎士を野放しにはしておけぬ。それが、己の至らなさであの子を絶望に追いやった、この私にできるせめてもの贖い)
柄を握る手に、力が籠もる。その瞳に宿る闘志は、一寸の狂いもなくヴィクトリアを射抜いていた。
飛剣風の態勢に入るバルスレイの眼光は、味方であるダイアン姫まで威圧している。
(凄まじい殺気……。これが、帝国最強と謳われた武人バルスレイの……!)
その気勢に圧倒されるダイアン姫は、息を飲んで双方を見守る。
王国
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