第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第38話 弐之断不要の威力
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ことがない……。当然でしょう。見せないよう、今日まで抑え続けてきたのですから。此の身を焦がす、憎しみの炎を」
「……!」
そこでダイアン姫は、ダタッツの話を思い出した。
勇者の剣はあくまで、本人の中にある負の感情を強く引き出しているに過ぎず、決して意識を乗っ取って操っているわけではない――。
だからある意味では、ヴィクトリアの言葉は嘘偽りない、彼女自身の本心なのだ。
「……それでも、わたくしは……」
彼女の想いは、痛いほどわかる。大切な人を失った悲しみ。祖国を蹂躙されてきた苦しみ。帝国への怒り。
その全てを、彼女と二人で背負ってきたのだから。
「あなたを……このまま進ませるわけには、行かないのです」
――だが。それをわかっていてなお、ダイアン姫は立ち塞がる。なぜそうしてしまうのか――なぜ、帝国を、ダタッツを庇おうとしているのか。
その答えが、わからないまま。
「これほどまでに姫様を誑かすとは……やはり帝国人共、万死に値するな」
そんな主君の眼を見遣り、一瞬だけ悲しげな表情を浮かべたヴィクトリアは――再び険しい面持ちになると、手にした刀を上段に構える。
王国式闘剣術、弍之断不要の体勢だ。
「……!」
その技が誇る破壊力を知る姫騎士は、間近で見る彼女の威圧感に触れ、息を飲む。今の状態で父譲りの弍之断不要を放てば、一体どれほどの――。
そんな考えが過った瞬間、ダイアン姫の体は僅かに強張ってしまった。それを見遣るヴィクトリアは戦意が崩れたことを悟り、彼女のそばを通り過ぎていく。
――刹那。
「姫様、将軍! ここは我々が!」
「散開! 包囲を固めろ!」
赤いマントを翻し、バルスレイ直属の精鋭騎士達が集まってくる。
「帝国騎士団!?」
「いかん、下がれお前達! お前達でどうにかなる相手では――うぐっ!」
街でパトロールしていた数少ない駐屯兵である彼らは、王宮内で待機している王国騎士達より早く、異変を察知して駆けつけてきたのだ。
さらに、その内の一人はすでに王宮へ向かい、状況報告のために走り出していた。
「……私が仕掛けてから、五分も経っていない。にもかかわらず素早く状況を判断し、救援要請も欠かさず包囲網を構築する――か。さすがに精強だな」
「そこまでだヴィクトリア殿! 剣を捨て、投降されよ! 我々は、無益に争うべきではない!」
「それに引き換え……我が王国騎士団の、なんと惰弱なことか。私が帰ってきたからには、徹底的に叩き直さねば――いや」
「……っ!?」
――だが、この超人にとっては包囲網を打ち破ることなど、造作もない。彼女の手に握られた勇者の剣から迸る殺気は、帝国騎士達の気勢さえ容易く飲み込んで行く。
「……一
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