第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第37話 幕開け
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その夜。
王国を守る姫騎士は、老境の武将を連れ、城下町を巡回していた。王族でありながら、一介の騎士と同様に己の足で街を歩む彼女の姿は、道行く人々から注目を大いに集めている。
「姫様だ……!」
「バルスレイ様も御一緒だぞ!」
「やっぱり何かあったんじゃないのか……!? あの御二方が動いてるなんて……!」
「シッ! 聞かれるぞ!」
ダイアン姫も、バルスレイも。厳しい表情で辺りを警戒しながら、街道を進んでいる。
王国の主力である彼らがこうして警戒を厳にしている――という状況は、民衆の憶測を大いに呼んでいた。
無論、当の本人達もそれに気付いている。
「……やはり、民衆も何がある、とは薄々ながら勘付いているようですな」
「それでも、まだ真実を知られるわけには参りません。ヴィクトリアの無事が確認できるまでは……」
神妙な面持ちでありながら、まだ眼差しに余裕を残しているバルスレイとは違い、ダイアン姫の表情には明らかな焦りがあった。
母を失い、傷心していた自分と共に支え合い、生きてきたヴィクトリア。姉代わりとも言うべきその存在が、かつてない窮地に立たされている。
その現状が、彼女の心から平静を奪っているのだ。……だが、彼女の胸中を乱す要因はそれだけではない。
「ダタッツ様も、ヴィクトリアを止められるかどうか……」
「……彼なら大丈夫、と言いたいところではありますが。勇者でありながら――彼はまだ、魔物との交戦経験がない。ヴィクトリア殿と戦うことになれば、彼が主力となるでしょうが……助力は必要かと」
「そう、ですね……」
勇者が魔王を倒し、魔物を滅ぼしてから数百年。そのような時代に召喚されたダタッツは当然、魔物との戦いなど経験していない。
そんな彼が初めて戦う魔物は――魔王さえ屠った邪気を纏う勇者の剣なのだ。常人の理解を超えた超人同士の戦いとはいえ、ダタッツが不利なのは火を見るよりも明らか。
彼自身は勝ってみせると意気込んでいるが、それも自分達を不安にさせないためのハッタリでしかない可能性もある。勝てる保証がないということは、直にその邪気に触れた上で、その力に真っ向から立ち向かうことになった彼の方が分かっているはずなのだから。
――それから約一刻。
人通りの少ない、王宮に続く道を歩み。
(ダタッツ様……)
「……姫様。案ずることはありません。ダタッツには我が帝国に伝わる投剣術があるのですから」
黒髪の騎士を想いながら、ダイアン姫は豊かな胸元に手を当てる。その横顔から彼女の胸中を悟るバルスレイは、敢えて気付かぬ振りをしていた。
そんな彼の気遣いを察してか。ダイアン姫は顔を上げると、話題を変えようと口を開く。
「――そういえば。バルスレイ様はなぜ、古
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