第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第36話 名前
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来た。魔物に追い詰められた自分達を救って欲しいって。王国の誰もが、相手にしちゃいけない、これも罠に決まってる、って信じようとしなかったんだけど……ローク将軍だけは、違ったんだ」
その心が望むまま、言葉を紡いで行くローク。ダタッツは、そんな彼女の語りを静かに聞き続けた。
「『弱きを助け、強きを挫く。騎士とはかくあるべきである』。ローク将軍はそう言って、敵国の救援に向かった。そのおかげで向こうは救われて、以来その敵国は王国の傘下になったんだ。……ローク将軍は、その戦いで命を落としたんだけど」
「そうか……」
「そんなローク将軍の生き様を、父上はいつも誇らしげに語ってたんだ。騎士の鏡だって。だからオレに、その名前を付けたらしいんだ。……憎しみに囚われない、真の騎士になれるように、って」
「なるほどね。そして今まさに、立派な騎士になった――ってことか」
彼女の名前に込められた、父の想い。その一端を知り、ダタッツはしみじみとした面持ちで深く頷いた。だが、自分を肯定するダタッツに対し、ロークは苦々しい表情で首を振る。
「……なってねぇよ。全然なってねぇ」
「ローク君……」
そんな彼女の様子に、ダタッツは眉を顰める。明らかに、自分のことで思い悩んでいるからだ。
(憎しみに囚われてるから、オレはお前を……)
ダタッツを見つめる少女騎士の瞳は――迷いの色を帯びている。父から授かった名前に背く、今の自分の在り方を、憂いているのだ。
「……もいっこ、聞いてもいいか」
「……いいよ。何かな?」
それに気付いているダタッツは、彼女が呟くありのままの言葉に、静かに耳を傾けた。
「父上はさ……どんな最期だったんだ……?」
「……」
「知りたい……知りたいんだ、オレ。父上がどんな想いで、お前にぶつかっていったのか。どんな風に、戦ったのか」
少女騎士の憂いを帯びた眼差しが、ダタッツが淹れたコーヒーに向かう。その揺れる水面を見つめる彼女の呟きに、ダタッツは僅かに言葉を失った。
だが、すぐに気を取り直して過去を思い返し――在りし日の騎士団長、ルークの生き様を脳裏に浮かべた。
「……彼のことを、詳しく知ってるわけじゃない。けれど、誇り高い人だということだけは、子供だったジブンにもすぐにわかった。勇者の癖に人に剣を向けるジブンが許せないと、いの一番に一騎打ちを申し込んで来たんだから」
「父上は……強かったか?」
「ああ、強かったさ。よほど、勇者という存在を大切に思っていたんだろう。凄まじい気迫だった」
勇者という神聖な存在でありながら、血に塗れ人類に暴威を振るう。そのような自分に向けられた敵意は、尋常ではなかった。
だからこそ自分も手など抜けなかったし、彼を倒した後も油断できなかった
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