第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第36話 名前
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一方、その懸念の向かう先である王国騎士のダタッツは。
「……なぁ、帝国勇者」
「ん? 何かなロークく――あっつ!」
自身が駐在している小屋に、男勝りの少女騎士を招き入れていた。彼女に手製のコーヒーを振る舞うために。
だが、生来の不器用さが災いしてか準備は難航している。かつて帝国勇者と恐れられた男は、剣では敵わぬ敵に苦戦を強いられていた。
そんな彼の姿にため息をつきながらも、少女騎士は出来上がりを待ち、見守り続けていた。こうしていれば、普通の青年なのに――と、もどかしさを覚えながら。
(こいつがもし、帝国勇者なんかじゃなかったら……多分、オレは……)
ババルオから自分達を守るために戦ってくれた彼。穏やかで優しく、それでいて強い。もし自分に兄がいたら、こんな風だったのだろうか。
帝国勇者という過去がなければ、きっと……自分はもっと素直に懐いていただろう。好きになっていただろう。
――そう。父の仇でさえなければ。
「うぁっちゃちゃちゃ! ……っと、ごめんごめん。何かな?」
「……なんで帝国勇者は、ダタッツって名前にしたんだ? 偽名にしたって、もっといい名前があったんじゃないのか? タツマサ・ダテだからダタッツって安直過ぎるって思うんだけど」
ロークは思う。この男はなぜ、「ダタッツ」と名乗ったのだろう。自分達に償うためだけに、伊達竜正という親から貰った名を捨ててまで――と。
「ふふ、確かにな。けど、安直でいいんだ。この名前なら……忘れずに済むから」
「忘れる……?」
「――例え捨てた名前だとしても、伊達竜正は母がくれた、大切な名前だ。この先、何十年経っても……地球でもこの世界でも、その名前が忘れられたとしても。ジブンだけは、覚えていたい。だから、ダタッツなんだ」
「……大切な、名前か……」
捨て去っても自分だけは覚えていたい、大切な名前。それを聞いた少女騎士は、天井を見上げて過去を振り返る。
今は亡き父に教えられた、自分の名前に込められた願いを。
「……オレの名前はさ。昔、王国を魔物から守るために戦った騎士から取ったらしいんだ」
「そうなのか?」
「大して有名ってわけでもないし、歴史書の隅っこにちょっと載ってるくらいだけどさ。その生き様に感動したからって、父上が付けたんだ」
ロークの脳裏に映るのは、幼い頃の自分にその歴史を読み聞かせる父の姿。もう会えないその父の言葉の一つ一つが、今も彼女の心に住み着いている。
「――その当時、王国は魔物と戦いながら、敵国の侵攻にも抵抗していたんだ。魔物との戦いに乗じて略奪を働くなんて、その頃は当たり前だったから……自国民以外は信用しないのが鉄則だった」
「……」
「けどある時、敵対していた国の兵隊が駆けつけて
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