第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第35話 笑顔にしたい
[1/4]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
それから、数日が過ぎた。
国王からの指令により、ヴィクトリアが呪われている可能性があるとの報せが騎士団に行き渡り、発見・接触した場合は速やかに報告する体制が築かれた。
併せて箝口令も敷かれ、彼女のことで国民が不安にならないようにされている。
だが、城下町を見回る騎士団員の人数が大きく膨れ上がり、その中の誰もが緊迫した面持ちで巡回していることから、民間人の間でも噂が飛び交うようになっていた。
また帝国が攻めてくるのではないか。街の中に凶悪な猛獣が潜んでいるのではないか。箝口令により情報を絶たれたことで逆に、根も葉もない噂に惑わされる者も現れるようになったのである。
「なぁ、もしかしたらババルオをやっつけたから、帝国の貴族が仕返しに来るんじゃないか……?」
「お、おい冗談だろ」
「もし本当なら、ここから逃げた方がいいんじゃ……」
「だ、大丈夫だって。もうすぐヴィクトリア様だって帰ってくるんだ、何があったって平気さ」
白マントに身を包む騎士団員のそばで、道行く人々は口々に憶測を語る。
(――騎士達の目に見える警戒心のせいで、色々な噂が流れている……が、情報そのものは漏れていないようだ)
その言葉の端々まで耳を傾け、黒髪をフードに隠した騎士は箝口令が機能していることを確かめていた。
王国騎士団の人望が失われつつある今、民衆の希望はダイアン姫とヴィクトリアしかいない。しかもダイアン姫の方は既に人々の目前で、帝国の手の者であるアンジャルノンに大敗を喫している。
その上、予備団員とはいえ王国騎士の一人となった帝国勇者に対する民衆の不信感は、未だに拭われていない。
それに加えて、最後の望みであるヴィクトリアまでもが、呪いによって危険な存在となった――などということが知れては、城下町そのものが恐慌状態に陥りかねない。
今、国民に真実を知られるわけにはいかないのだ。
(――全ては、俺の浅ましさが招いたことだ。例え何があろうと……必ず、この国を守り抜いて見せる)
その未来を回避するべく。黒髪の騎士は日常を送る城下町の人々を見つめ、拳を握り締めた。
(ダイアン姫やローク君は、俺に対してどう接するか悩んでいるようだった。……だが。ヴィクトリアが傷つけられたなら、もう俺を憎むべきか迷うことはなくなるだろう)
罵声も憎悪も怨恨も、全てこの身で受け止める。騎士は人知れず、自己犠牲の道に身を落とそうとしていた。
(……そうでもしなければ。勇者の剣を手にした相手に勝つことなどできない。万に一つでも俺が負けるようなことになれば、この国の人々にも甚大な被害が及ぶかも知れないんだ。この国の騎士となった以上、それだけは許すわけにはいかない)
数日前。城の牢を訪れた騎士は、自身が捕
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ