第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第34話 追憶を終えて
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それをわかっていたから、お前の責を受け入れたのだ。罪を償う、騎士としての道を」
「……」
父の言葉を聞きながら、幼い姫騎士は夜空を見上げ、黒髪の騎士を想う。
彼は自分の純粋な願いのために、罪に苦しみながら戦い続けてきた。だが、そうしたところで、もう彼には帰れる故郷などなく――罪を清算するために死ぬことすら許されなかった。
だからせめて、今生きている人々の笑顔だけは守ろうとしたが、帝国勇者という名を背負っていては、恐怖を振り撒くことしかできない。
それでも彼は、償うことを諦めなかった。ゆえにかけがえのない家族から貰った名前さえ捨て去り、ダタッツというこの世界の住人となったのだ。
――彼が犯してきた罪は、確かに許し難い。だが、彼に良心がなければ、どうなっていただろう。
まず間違いなく自分はババルオの慰み者となり、この国も彼の掌上で弄ばれていた。この国に平和が戻ることもなかっただろう。
そもそも彼が現れなければ、王国が帝国に屈することもなかったのだろうが――その代わり戦争が長期化し、今以上に豊かな大地が荒れ果てていたかも知れない。
何より。自分達のために、凛々しい面持ちでアンジャルノンと戦う彼の勇姿に、どうしようもなく心を奪われている自分がいたのだ。
考えれば考えるほど。ダイアン姫は、ダタッツへどう接するべきか、わからなくなっていた。
憎めばいいのか。愛すればいいのか。
複雑な想いのまま、碧い瞳は星々を見つめている。
一方――国王はこの件の行く末に、一抹の不安を感じていた。
それは、戦力の要となるダタッツの人柄に起因するものであった。
(王国の民を殺め続けてきたことを悔いる彼が――本当に、迷うことなくアイラックスの娘に剣を向けられるのだろうか)
彼が亡き父の面影を見たという、アイラックス。その娘を相手に、罪の意識を抱えた彼が全力で戦えるとは思えない。
――果たして、勇者の剣の力に囚われているであろうヴィクトリアを、今の彼が止められるのか。
(……それでも。今はただ、彼の力を信じるしかない、か。すでにこの戦いは、人間の枠などとうに超えた次元なのだから)
今はまだ、答えは出せない。
人間同士の決闘とは違う、超人達の戦いなのだ。自分の見解など及ばない部分があるのかも知れない。
その未知の領域が、希望となるか。絶望となるか。先の見えない王国の未来を憂い、国王は愛娘の横顔を見遣る。
(せめて――この娘の笑顔が守られる、結末であってくれ)
そして。恋を患い、迷い続けるダイアン姫の姿を認め――国王は人知れず、娘の幸せを願うのだった。
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