第二章 追憶のアイアンソード
第33話 流浪の剣士ダタッツ
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帝都。
そこは華やかな景観を持ち、煌びやかな服に身を包む人々が行き交う文明の都。
その中心には――この帝国の強大さを象徴するかのような荘厳さを持つ巨城が聳え立っていた。
そして。幾万もの軍勢を束ねる強国の存在感を主張する、その城の最上層には――帝国の全てを統べる皇族が座していた。
「……」
望むものがあれば、圧倒的な力をもって何もかも手にすることができる。そのような絶対的な強者でありながら――玉座に腰を下ろす時の皇帝は、憂いを帯びた表情で帝都を静かに見下ろしていた。
その胸中を悩ませる存在――帝国勇者と呼ばれた少年の戦死が知らされてから、既に二年が経過している。
それほどの月日を経た今でも、その報告を覆す情報は入ってこない。未だに遺体が見つかっていないとはいえ、もはや生存している可能性は絶望的と言っていい。
だが。帝都の広場に建てられた、勇者の武勲を称えて造られた銅像を見つめる皇帝は。その結末を、今も受け入れ切れずにいた。
勇者の鎧と兜を纏い、勇者の剣を掲げる少年の像は、皇帝の記憶に残された彼の姿を彷彿させていた。それゆえに、彼は今も勇者の安否を気にかけているのである。
「……バルスレイから、報せは届いたか」
「いえ。未だに……」
「そうか……」
二年前。王国軍残党の鎮圧に当たっていた勇者タツマサは、敵の生き残りに背後から刺され、崖下に転落したという。
普通の兵士なら、間違いなく即死している状況だ。しかし、彼は神の力を齎された異世界の勇者。そうやすやすと死ねる身体ではない。
だが。崖の底には勇者の剣と、誰のものかわからない肉片が散乱していたという。
さしもの勇者も、墜落の衝撃には耐えられなかったのか。人類に牙を剥く勇者の所業に怒った神が、勇者から力を奪ったのではないか。
様々な説が横行したが――勇者の生存が絶望視されている点だけは、共通していた。
一方。目撃者の証言では、勇者を刺した残党も墜落したという。現場の肉片がその残党のものであったとするなら……勇者が生きている可能性もなくはない。
しかしそれも確証があるわけではなく、生存説の根拠とするには弱いと見られていた。
それでも皇帝は――その僅かな可能性に望みを懸けて、勇者の戦死を公表してからも密かに捜索を続けるよう臣下に命じていた。
帝国の英雄である勇者を、長く「行方不明」と扱っていては臣民の不安を招いてしまう。ゆえに、公的には早い段階で勇者は戦死したと発表していた。
英霊として勇者を祀り上げることで、勇者がいなくなっている理由を「創り出した」のである。
それ以降も、皇帝はこうして勇者の行方を追い続けていたのだが――それを知らない皇女フィオナは勇者の死にショックを受け、再び
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