第二章 追憶のアイアンソード
第33話 流浪の剣士ダタッツ
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勇者としての栄光も、名誉も。皇女殿下の、想いさえも)
悲しげなその瞳には、戦士としての色など欠片も残されていない。そこには、我が子と引き離された親のような、寂しげな色だけが湛えられている。
(だが……帝国が王国に勝利できたのは、間違いなくお前のおかげだ。誰にも文句は言えまい。……それがお前の選んだ生き方なら、私にはただ、武運を祈ることしか出来ん)
そして、ダタッツを乗せた馬車がバルスレイの視界から完全に消えた時。
老将は静かに踵を返し、歩み出す。哀愁の漂う背を、山道に向けて。
(――せめて、その道の果てに救いがあらんことを)
それだけを願い、彼は立ち去って行く。――やがて、彼の目の前に副官が駆けつけて来た。
「バルスレイ将軍! いかがされたのです!? まさか、何か手がかりが……!?」
「……いや。収穫はない。やはり、噂は噂だったようだな」
「将軍……?」
どこか諦観したような彼の声色に、副官は訝しむように眉を顰める。そんな彼の声など、聞いたことがないからだ。
「皇帝陛下には、諦めて頂く他あるまい。――帝国勇者は間違いなく帝国の理想に殉じ、英霊となったのだ」
そう呟き、バルスレイは馬車が走り去った方角を、一度だけ見遣る。そして、再び歩み出してからは――もう、振り返りはしなかった。
(さらばだ、タツマサ)
最後に。心の奥底で、息子のように想ってきた少年の名を呼んで。
――私達が暮らすこの星から、遥か異次元の彼方に在る世界。
その異世界に渦巻く戦乱の渦中に、帝国勇者と呼ばれた男がいた。
人智を超越する膂力。生命力。剣技。
神に全てを齎されたその男は、並み居る敵を残らず斬り伏せ、戦場をその血で赤く染め上げたという。
如何なる武人も、如何なる武器も。彼の命を奪うことは叶わなかった。
しかし、戦が終わる時。
男は風のように行方をくらまし、表舞台からその姿を消した。
一騎当千。
その伝説だけを、彼らの世界に残して。
――そして、四年後。終戦から六年を経た今。
男の旅路は、今も続いている。
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