第二章 追憶のアイアンソード
第33話 流浪の剣士ダタッツ
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いたバルスレイも、感嘆の声を上げている。勇者の剣を手にしていた頃より、さらに腕に磨きをかけていることを戦い振りから感じていたのだ。
(二年前より動きの無駄が解消されただけでなく、飛剣風もさらに冴え渡っている。実戦を重ねたことで、自ずと身に付けた立ち回りなのだろう。……もはや私など、今のあの子の足元にも及ぶまい。なぜ二年も行方をくらましていたのかは知らぬが、とにかくこうして会えた以上、連れ帰らぬ手はない!)
その成長を喜ぶバルスレイは、少年と再会するべく一歩を踏み出し――
「あ、あんたまさか……この近辺に出たっていう、帝国勇者か!?」
「え!? あの、敗残兵さえ容赦なく殺すっていう……!?」
――旅芸人達の怯えた声に、足を止める。
今、彼らは少年が帝国勇者ではないかと勘繰っている。ここで自分が飛び出せば、間違いなく旅芸人達は少年が帝国勇者であると確信するだろう。
少年は、自分が帝国勇者であると認めるつもりなのだろうか。認めないのだろうか。
それがわからないうちは、自分は動いてはならない。バルスレイは咄嗟にそう判断し、様子を見守っていた。
「……」
彼は、何も語らない。ただ静かに、盗賊達が全員気絶していることを確認している。
否定も肯定もしないつもりなのか――。バルスレイが、そう判断しかけた時。
「……帝国勇者なら、二年前に死んだはずでしょう。ジブンは、ただの風来坊ですよ」
少年は穏やかに笑い、バルスレイの知らない「ジブン」を演じていた。
(……!)
その光景に老将は目を見張り、少年が帝国勇者としての己を捨て去ったことを悟る。それゆえに帝国に戻らない、ということも。
「だ、だよなぁ、ハハハ……。助けてもらったのに、疑うようなこと言って悪かったよ。ありがとうな、風来坊さん!」
「しかし、べらぼうに強いなあんた。名前はなんていうんだ?」
「名前は……」
少年が帝国勇者ではないと判断し、旅芸人達は胸を撫で下ろす。そんな彼らの問いに、少年は僅かに間を置いて――
「……ダタッツです。ジブンは、ダタッツといいます」
――新たな名を、名乗るのだった。
「ダタッツ? はは、変な名前だな!」
「えへへ、よく言われるんですよ。ジブンは結構気に入ってるんですけどね」
「よし、ダタッツ君。助けてもらった礼だ、麓の街に送るついでに一曲サービスしよう!」
「ホントですか!? やった!」
少年――ダタッツは屈託のない笑みを浮かべると、賑やかな音楽を奏でる馬車に乗り、旅芸人達と共に山を下って行く。
バルスレイはその後ろ姿を、静かに見送っていた。誰にも、気付かれることなく。
(ダタッツ、か……。やはり、お前は全てを捨て去ってしまったのだな。
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