第二章 追憶のアイアンソード
第33話 流浪の剣士ダタッツ
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とでは、反応に大きな差が出る。
副官が気づいていなかったその違いを、バルスレイは見抜いていたのだ。記憶を掘り返されたように、顔を顰めた村人達の心境を。
(おそらくは帝国勇者――タツマサの報復行為を恐れて、知らぬ振りをしたつもりなのだろう。我々にとってはともかく、彼らにとってタツマサは恐ろしい怪物でしかないからな……)
そして、村人達の中でも――とある一人の少女は、一際特別な反応を示していた。怯えながらも、どこか寂しげなその瞳を――老境の武人は見逃さなかったのである。
ゆえに。バルスレイはその少女の瞳を見て、確信したのだ。
(やはり、タツマサは生きている……! 生きているのだ!)
「バルスレイ将軍……!?」
生い茂る森を見つめる将軍の眼差しに、力が籠る。副官はそのただならぬ様子を前に、何事かと眉を顰めていた。
――その時。
「きゃああぁあっ!」
「うわぁあああぁあ!」
数人の男女の悲鳴が、一定の方向から同時に響き渡ってきた。
「な、何事か!」
「……!」
突然起きた緊急事態に副官は冷や汗をかき、バルスレイは一瞬で眼の色を戦闘時の鋭いものに変える。
人々の叫びに、戦士としての直感が騒いだのだ。
(王国が敗戦して以来、アイラックスの威光により保たれていた治安が崩壊し、野盗共が横行するようになったと聞く。強者が世を去った途端に、自分達が強くなったと錯覚するとは……愚かな奴らめ)
バルスレイは迷わず馬車を飛び降り、悲鳴の出処を辿りながら森の中を駆ける。その素早さは老いを感じさせないばかりか、力強さを全身から放っているようだった。
二年前にアイラックスが戦死したことで、王国騎士団は士気を大きく削がれ、王国全体の戦力は著しく低下した。
その変化は治安にも現れ、今では王国の片田舎の多くが、盗賊の根城にされているという。王国内では都会と呼べる町には、決まって帝国の駐屯兵が居座っているため盗賊の脅威は排除されているのだが、そうではない田舎の町や村は格好の餌食なのだ。
事実、バルスレイ達が立ち寄った村も一年前までは、山賊の動きを警戒していたのだという。――ここしばらくは、その気配も途絶えているそうだが。
芝や草を掻き分け、猛獣にも勝る勢いで地を走るバルスレイ。その視界に現場の光景が映る瞬間は、すぐにやって来た。
ボロ布を纏うならず者達に包囲された、一台の馬車。その中には幾つもの楽器や小道具が積まれ、馬車の外で震えている数人の男女は芸人の衣装に身を包んでいる。
おそらく、狙われているのは旅芸人の一座。一稼ぎを終えて帰路についているところを襲われたのだろう。
(賊は十三人。馬車の上に二人、馬車前方に五人、後方に六人。馬車の二人から始末して奴らの
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