第二章 追憶のアイアンソード
第32話 過去との決別
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殿が戦ってくれたおかげで、この村は救われた」
「……」
「私には、今の貴殿が悪しき勇者には見えん。――ゆえに。その心を見込んで、頼みたいのだ。どうか貴殿の手で、この穢れた魂を救ってくれ」
「……俺は……」
「殺しは、好まぬのだろう。我らに剣を向けていた時の、あの悲しげな顔を見ればわかる。……だが。武人として、より強い者の剣に討たれることを……望まずには、いられないのだ」
狂気に支配されてさえいなければ。この騎士が守るべき民を苦しめることなど、万に一つもなかっただろう。
だが――起きてしまった結果を変えることは出来ない。ゆえにこの騎士は、介錯を望むのだ。
竜正個人の意識としては、騎士の矜恃といえど、これ以上人を殺めるようなことは何としても避けたかった。
だが。ここで自分が殺さなかったとしても、村人を何人も殺してきた彼らが許されるはずがない。まず間違いなく、村人達の手で処刑される。
自分の過ちのために、王国人が王国人を殺める事態になってしまうのだ。
「これを、殺しと思わないでくれ。これは、救いなのだ。我々にとっては……何よりも尊い、救済なのだ」
「ソウ……ダ……」
「ワレワレヲ……コロ、シ……テ、ク、レ……」
「スクイ、ヲ……テイコク、ユウシャ……」
やがて、他の騎士達も徐々に正気を取り戻しつつあった。皆一様に、竜正の手でとどめを刺されることを願っている。
だが――どうしても、竜正は踏み切れなかった。勇者の剣を手放し、一年間に渡り戦いから身を引いていた少年の心は、再び人を殺めることを頑なに拒んでいる。
だが。
自分のために、罪のない人が手を汚すことになることの方が――彼には、堪えられなかった。
「俺、はッ……!」
「帝国勇者よ、どうか……救いを!」
「スクイヲ!」
「――ぁ、あぁあああぁああッ!」
救うために殺す。殺すことで救う。
その矛盾に苛まれた果てに――少年は、慟哭と共に螺旋の剣を放つ。
全てを切り裂くその一閃は、死を望む騎士達に救いをもたらし――木々を薙ぎ倒す突風を生んだ。
その刹那。少年は、確かに見た。
ありがとうと呟く、騎士の最期を。
「……」
――全てが終わった時。少年の足元には、強烈な風により引き裂かれた肉片が、あらゆる場所に散乱していた。閉じられた納屋の扉からは、赤い血潮が染み出している。
もう、ここに騎士達の魂はない。天へ召された彼らの御霊は、確かに「救われた」のだ。
ゆえに、今ここにあるのはただの肉塊に過ぎない。――その肉塊を一瞥し、竜正はゆっくりと振り返る。
そこには。
「……まさか帝国勇者様であらせられたとは露知らず! 度重なる無礼を働き、誠に申し訳ありません! 何卒、村人のお命だけ
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