第二章 追憶のアイアンソード
第31話 少女の涙
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他意などない。
それが、彼女の行動についての竜正の見解であった。
「……タツマサくん、みんなを守ってくれたんだよね。お父さんから聞いたよ」
「ん、あぁ……いや、守ってなんかいない。結局、俺は――」
「――お母さんも、きっとありがとう、って言いたかったと思うよ。私だって、感謝してるんだし。……ありがとう、私達を守ってくれて」
「ベルタ……」
泣き笑いにも似た表情で、ベルタは竜正に微笑みかける。その儚げな笑顔は、少年の心を深く抉った。
悪いのは、自分なのに。それを知らずに、彼女は自分を慕っている。
その状況に心を痛めながら、竜正は人知れず誓いを立てる。
(……今はただ、戦おう。例え甲斐がないとしても――この笑顔を、この優しさを、無駄にはできない)
本当は、辛くてたまらないはずなのに。悲しくて、たまらないはずなのに。それでも彼女は、自分のために笑おうとしている。
自分を、追い詰めないために。きっと、それが彼女なりの礼だったのだろう。
それでも。
「ぁっ……」
「……」
竜正は、見ていられなかったのだ。
少年の腕の中に、少女の白い裸身が収まる。抵抗する暇さえ与えない自然な動作に、少女は頬を赤らめ、思わず甘い声を漏らしてしまった。
「今ぐらい、泣いていい」
「……っ!」
そして少女は自分の声に恥じらう暇もなく、耳元で優しく囁かれ――本心を、暴かれてしまった。
「俺は今夜、誰の涙も見ていない。泣いてるところも見ていない。だから、いいんだ」
「……ぅ、ぁ、ああっ……!」
取り繕う隙もない、甘い囁き。それは少女が懸命に作り上げた心の壁を、雪のように溶かしていく。
その溶けた雫は涙として少女の頬を伝い、やがて少年の胸に滴り落ちた。
少年は何も言わず、ただ静かに少女を抱き締める。浴場に響く、彼女の啜り泣く声が消え去り――再び、この空間に静けさが戻るまで。
いつまでも、待ち続けた。
――それから、どれほど経っただろう。いつしか少女は安らいだ表情で、少年の胸板に身を委ねていた。
そうして生まれたままの姿で、自分に寄り掛かる少女の肩を抱き、少年は静かに呟く。彼女にしか、聞こえないように。
「こんなことを言える資格など、俺にはない。それでも……」
「……」
少年は穏やかに――力強く、宣言する。
「……君は、俺が守る」
あまりにも簡潔で、飾り気のない言葉。しかし、死の恐怖に晒されていたベルタにとっては、それだけで十分だった。
「……うん」
彼女も、小さくか細い声で呟くと、小さく頷いて見せた。赤く染まるその顔は、どこか恥じらっているようで――それでいて、幸せそうにはにかんでいる。
もはや、その笑顔に
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