第二章 追憶のアイアンソード
第30話 呪いの亡霊
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森が闇夜に包まれ、村が静寂に支配される頃。少数の見回りを除く村人の大半は、明日の仕事に備えて眠りにつき、穏やかに夜を過ごしていた。
一方、ごく僅かだが、そんな時間になっても酒を飲んで騒ぐ連中もいる。見回りの者が何度注意しても直らない者が多く、村人も彼らには手を焼いていた。
「あー、いいねぇ平和って! ここには帝国軍もこねぇし、ここ一年くれェは山賊も現れねェし! なんでか知らねぇけど、やっぱ平和が一番だぜ!」
「それなんだがよ。風の噂だと、どっかから来た凄腕の剣士が一人で、この辺の盗賊共をみんなのしちまったって話だぜ」
「へぇ、ほんとかそりゃあ! ……うん? そういや一年くれェ前から、ここに風来坊の剣士が居着いてたよな」
「タツマサのことか? ははは、さすがにあいつはねぇよ! 確かに剣は持ってるけどオンボロだし、戦ってるとこなんて見たことねぇし、なによりチビでドジだもんな。あいつに盗賊が倒せるんなら、俺は魔王にデコピンで勝つね」
「ちげぇねぇ! がははは――っと、噂をすりゃなんとやら、だな。どこ行く気だ、あいつら?」
すると、彼らの視界に捜索隊の姿が映り込む。あり合わせの槍や斧、鍬などで武装し、物々しい表情で村の門へ向かう彼らの姿に、酔っ払い達の一人が酔いを覚まして息を飲む。
「……お、おい。なんだあいつら。あんな仰々しいカッコで、どこに行こうってんだ?」
「さぁ、な。どうせ近くに猛獣でも出たんだろ。良くあることじゃねぇか」
他の者達は大して気にしない様子で、再び酒に手を伸ばして行く。一方、酔いを覚ました中年の男は――訝しむように、捜索隊の列を見送っていた。
「あのタツマサとかいうチビまで……。なんだ……何が起きようってんだ……?」
その視線を浴びながら――剣を携えた少年は、仲間達と共に森の奥深くへと踏み込んで行くのだった。
森は闇に包まれ、数歩先が真っ暗になっている。村人達はカンテラで視界を確保しながら、歩み慣れた村への道を見渡していた。
「すまないね、タツマサ君。村へ来てまだ一年程度しか経っていないというのに、こんなことに付き合わせてしまって」
「いえ、俺が望んだことですから。……それにしても、なかなか見つかりませんね……」
「ああ……。ベルタが心配するのも、無理はないな」
この道の地面には、馬車の跡が残っていない。少なくとも、帰りの馬車はここに辿り着くことすらできなかった、ということになる。
もっと遠いところで――何かが、起きたのだ。
「村長さん……」
「……行こう、タツマサ君。仮に向こうが無事なら、この道を下る途中で合流できるはずだ」
「……はい」
不安を拭うように歩みを進めて行く村長。その背中を、タツマサと武装した村人達が追いかけて行く。
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