第二章 追憶のアイアンソード
第30話 呪いの亡霊
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形のように、そこら中に転がっていたのだ。
さらに近くの木々には、人の手足が幾つも突き刺さっている。加えて、馬車からその周辺に至るまで、赤い血潮の海が広がっていた。
地獄絵図。その一言が、この空間に集約されている。
「お、おぇっ……!」
「ゲホッ、ゲェッ……!」
村人達は次々と吐き気を催し、眼前の惨劇から目を背けて行く。その光景の恐ろしさと腐臭に、彼らの精神があっけなく崩れてしまったのだ。戦士でもない村人には、荷が重すぎたのである。
「……なんと、いうことだ……ミリア……!」
村長はそんな中、吐くことも背を向けることもなく。ただ悲しげな表情で、馬車の奥で永久に眠る妻を、見つめていた。
亜麻色の長髪は血の色に染まり、半開きになった眼からは魂が失われている。その苦しげな死に顔が、この事件の凄惨さを如実に物語っているようだった。
「……」
竜正は落胆する村長を一瞥すると、彼の視界に入らないよう気を遣いながら、周囲の調査を始める。
馬車の破壊された箇所。遺体に残された切り傷。それらに着目し、竜正は片膝をついて痕跡を撫でた。
すると――彼の手に、細かく砕かれた金属片が触れる。それは、剣の刃こぼれによって生じるものだ。
(……やはり。この壊れ方、切創の形……。これは剣によるものだ。しかも、馬車を破壊する程のパワーで……)
何者の仕業かは依然不明なままだが、犯人達が相当な膂力の持ち主であることは明らかだった。恐らく、犯人達を見つけたとしても村人達では歯が立たないだろう。
そう判断した竜正は、自身が背負う責任の重さを、改めて痛感する。この村に生きる人々の命運は、自分の手に懸っているのだと。
「いやぁあああ!」
その時。甲高い叫びが夜の森に轟き、村人達が一斉に顔を上げる。
竜正はその叫びに、思わず目を見開いた。この捜索隊に、女性は一人もいないはず。それに、この声は……。
「ベルタ!? なぜ来たんだ、家にいろと言ったはずだぞ!」
「お母さん! お母さんっ! いや、ぁぁあああ!」
村長は茂みに隠れていたベルタを見つけ出すと、両肩を掴んで激しく揺さぶる。が、彼女は父の叱責には何の反応も示さず、ただ目の前に横たわる母の亡骸を見つめ、泣き叫んでいた。
(さっきの違和感はベルタだったのか! 迂闊だった……!)
竜正と村長はここに来る前、捜索隊に同行しようとしていたベルタを制止していた。臆病な性格ゆえ、普段なら絶対に夜は出歩かないはずの彼女が、母に会うために懸命に捜索隊に加わろうとしていたのだ。
もっとキツく言い聞かせておくべきだったと、竜正は後悔した。馬車の者達が皆殺しにされている可能性は、ここに来る前から覚悟していたのだから。
「……ッ!」
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