第二章 追憶のアイアンソード
第29話 山村に迫る影
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太陽の後光を浴びた丸太が、青空へ舞い上がり――その影が、少年を覆う。
「たぁあぁッ!」
さらに少年は、丸太の高さまで跳び上がり。腰に提げた銅の剣を引き抜くと、瞬く間に丸太を空中で切り刻んでしまった。
切り裂かれた丸太は幾つもの木片――薪と成り果て、地面に降り注ぐ。
その無数の薪は、幾重にも積み重なり、山となっていった。最後に少年がひらりと地上に降り立つと、村人達から拍手が沸き起こる。
「おおっ、今日は何も頭に降って来なかったな! ツイてるぞタツマサ君!」
「はは、もう大丈夫ですよ。今までの俺とは一味……いだっ!?」
だが、宙へ跳んだ弾みですっぽ抜けていたのか――少年の腰から失われていた剣の鞘が、彼の脳天に直撃してしまう。
その痛みに頭を抱える彼の姿を目の当たりにして、村人達は揃って笑い声を上げた。
「がはははは! まだまだこれからだな、タツマサ君! もっと腕を上げるまでは、普通に切った方がいいんじゃないか?」
「そーそー、今にたんこぶじゃ済まなくなるぞ、ははは!」
そして、少年の一芸に気を良くした彼らは、満足げな表情で各々の仕事に戻っていく。少年はそんな村人達の背中を見遣りながら、痛みを堪えて薪を運び始めるのだった。
(この村に流れ着いて、もうじき一年か……。戦争の難民が多く集まったこの村に少しでも貢献できれば、償いの一つにはなるかもと思って働いてきたけど……こんなことで、いいんだろうか。共に笑い合って、いいんだろうか……)
その眼差しが、再び神妙な色を帯びようとする――瞬間。
「タ、タツマサくん。大丈夫なの? 痛くない?」
「……平気、平気。俺のことなら心配いらないよ、ベルタ。それより……」
少年の身を案じてか、村長の娘――ベルタが慌てて駆け寄ってくる。彼女は心配そうな表情で、一つ年下の少年の頭をさすり、顔を覗き込んできた。
そんな彼女を元気付けるため、少年は無理矢理笑顔を作るが――その作り笑いも、やがて消えてしまう。門の近くで、深刻そうに話し合う村の重鎮達の姿を見る彼の目は、不穏な事態を予感しているようだった。
少年の面持ちから意図を察したベルタの表情も、深く沈んでいる。
「……さっき、お父さん達が話し合ってるのを聞いたの。今晩、近隣を見回る捜索隊を作るって……」
「本当か?」
「うん。村のみんなに心配はかけられないから、少人数で行くって言ってた……」
戦争が終わった今、戦いに巻き込まれたとは考えにくい。しかし、戦争が終わったからと言って平和が訪れるとは限らない。
むしろ世情が大きく変わる分、その時流に乗れなかった人々が、生きるために盗賊に成り果てるケースだってある。
まして、ここは山奥の村であり、敗戦国の地。帝国の支配体制が不完
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