第二章 追憶のアイアンソード
第27話 母との別れ
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わけではありませんが」
報道陣は冷淡な口調で、母を責め立てるような言葉を並べて行く。そんな追及にさらされ続けている彼女の横顔は、無惨なほどに痩せこけていた。
(母さん……!)
それを目にすれば、母がいかに苦労してきたかが容易にわかる。わかってしまう。
とにかく、終わりにしなければ。一刻も早く母の元へ帰り、無事を報告しなければ。
そう焦る竜正は、後ろから報道陣に囲まれた母を救おうと、一気に駆け出して行く――が。
「大丈夫です。あの子は強くて優しい子ですから。……いつかきっと、元気に帰ってくる。私は、そう信じています」
「……ッ!」
にっこりと笑顔を浮かべて、報道陣にそう宣言する彼女の姿を前に、踏みとどまってしまった。
勢いを失った竜正の疾走は、やがて歩みとなり……棒立ちとなり。最後は、両膝を地に着ける結果となっていた。
母は……信じている。自分が、あの日と変わらないままの、「優しい子」であると、信じている。
自分のためだけに多くの命を奪った帝国勇者の、自分が――「優しい子」だと。
(ち、違う。違うんだ。違ったんだ。母さん、俺は優しくなんか……優しくなんかなかったんだ……!)
気がつけば、竜正は己の頭を両手で抱え、うずくまっていた。あれほど帰りたかった世界なのに。あれほど会いたかった母が、目の前にいるのに。
今はただ、その暖かさが。優しさが。痛い。
(……! あ、ああ……!)
ふと、竜正は己の両手を視界に映し――戦慄する。
彼の両手からは……血が溢れていた。自分の血ではない。
自分が殺めた人々の返り血が、濁流となり、この手に溢れている。
あの、アイラックスの血も――きっと。
(だめだ……帰れない! ここには帰れない! 俺は、俺は母さんが知ってる竜正じゃないんだ……ただの、冷たい人殺しなんだ!)
その赤い幻覚に、竜正の心は打ち砕かれていた。住む世界を変えても、剣を捨てても、一生罪からは逃れられない。
あの戦いの日々は、死ぬ瞬間まで竜正の記憶につきまとうのだ――と。
(ごめん……母さん。俺、何も守れなかった。あの世界の人々も、フィオナの笑顔も、母さんの幸せも……)
自分という人間は、こうなってしまった。それはもう、変えようのない事実。
(だから……俺は……)
竜正は瞳から光を失ったまま、静かに立ち上がる。そして――
「……竜正?」
――息子の悲しむ声を、聞いたような気がして。
母が振り返った時には。
「どうしました、伊達さん?」
「あ……いえ、なにも……」
竜正は再び、この世界から姿を消していた。
――心の底から、願ったからだ。
この世界から。自分を。消し
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