第二章 追憶のアイアンソード
第27話 母との別れ
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いた。
(けれど……私は……)
しかし……愛する彼が苦しむような真似だけはできない。ここで泣き喚いて引き留めるのは簡単だが――フィオナは母との再会を夢見る竜正の横顔を思い出すたびに、そのような邪念を懸命に追い払っていた。
「勇者様……おめでとうございます。ついに、成し遂げられた……のですね」
「フィオナ……」
「さぁ、ご自分のふるさとへお帰りください。――母上が、待っておられるはずです」
「……ありがとう」
今にも崩れ落ちてしまいそうな――儚い笑顔。それを見遣り、竜正はふらつきながらも、静かに立ち上がる。
「……それじゃあ……今まで、ありがとうございました。どうか、お元気で……」
そして少しずつ、光の向こうへと歩みを進めて行った。後ろから僅かに聞こえる、すすり泣く声には気付かぬふりをして。
「勇者、様……私は……いつまでも、あなた様をお慕いしております……」
竜正の姿が、光の中へと消えていく。
その瞬間、たがが外れたように――フィオナは、ありのままの想いを言葉に乗せ、竜正がいた場所へ呟いていた。
とめどなく溢れる涙。崩れ落ちる膝。喉の奥から漏れて行く泣き声。少女は何一つ、抑えることができなかった。
しかし、皇帝はそんな娘を咎めることもなく。父として静かに、泣きじゃくる娘を抱きしめていた。一方で、帝国の統率者として生き抜いてきた歴戦の瞳は、自分が作り出した光の渦を見つめている。
竜正を遥か彼方へ誘った渦は、時間と共に少しずつ小さくなり始めていた。術者である皇帝が、術の維持より娘を優先したためだろう。
この光が消えれば、この世界と竜正の世界の繋がりはなくなる。もう、彼が帰って来ることはない。
だが、これでいい。光の渦が消える頃には、竜正も無事に向こうへ着いているはず。
遥かに遠い異世界の彼方、とあっては、安否を確かめる術もないが――竜正なら大丈夫だと、信じる他ない。
(タツマサよ……ありがとう。誰がなんと言おうと、余にとって貴殿は紛れもなく「勇者」であったぞ)
娘を抱きしめ、皇帝は光の先へと消えて行った少年に、精一杯の賛辞を送る。
そんな父の胸の中で、フィオナはただひたすら、縋るような姿勢ですすり泣いていた……。
「――こ、こは」
……そして。
竜正の視界には――懐かしく、穏やかな景色が広がっていた。
石造りの塀。電柱。見慣れた造りの住宅街。どれも、あの日から――召喚された日から、変わっていない。
その光景だけで、竜正は強く実感していた。自分は――元の世界に帰ったのだと。
「……え……?」
だが。
帰還に成功した余韻に浸る間など、与えられはしない。
我が家へ帰ろうと歩みを進めた瞬間。竜正の目に
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