第二章 追憶のアイアンソード
第26話 父の面影
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辛くもアイラックスを退けはしたが、目に見える勇者の疲弊を目撃した兵達は、楽観できる現状ではないことを悟っていた。
伝説の勇者を戦線に投入して、ようやく辛勝。その結果は、前線に立つ兵達に緊張を走らせる。
――しかし、留まるわけには行かない。休息の時間をあちらに与えていては、膠着状態を打破することなどできない。
一日も早く戦争を終わらせるには、前に進むより他はないのだ。
母の元へ帰るため。少年は剣を取り、身を引きずるように戦いに明け暮れて行く。
誰かの幸せを犠牲にする。その重圧を、剣の呪いに塗りつぶされながら。
(俺は……俺は……)
だが。幾多の戦いを乗り越え、王国の中枢――城下町へ近づく頃には。重ね過ぎた罪の記憶は、呪いで誤魔化せない程にまで積み重なっていた。
自分に斬られた人間が、絶命する瞬間。苦悶の表情。零した涙。一人一人の全てが、脳裏に焼き付いて行く。
なまじ良心を胸に残しているせいで、その記憶は深く竜正を追い詰めていた。
彼がもし、ただ「操られている」だけだったならば。剣のせいに出来たならば。心が壊れかける程には、至らなかったかも知れない。
(何人殺せば、戦いは終わる? 何人殺せば、母さんのところへ帰れる? 何人殺せば、俺は……)
だが、勇者の剣にそこまでの力はない。この妖刀はただ、所有者が元々持っている攻撃性――殺意を、引き出しているに過ぎないのだ。
それを本能で感じ取っているからこそ、竜正は思い知らされているのである。自分は、自分の意思で人を斬っているのだと。
――もしも、そばにいたバルスレイが、思い悩む竜正の胸中を察していたなら。勇者の剣の邪気に、気づいていたなら。
救われる道も、あったかも知れない。
だが。終戦から六年が過ぎるまで、そのもしもはとうとう訪れなかったのだ。
王宮を中心に据える城下町を背に、最後の防衛戦に臨む王国軍との決戦。
その時も彼は――独り、心を蝕む呪いに、苦しんでいたのである。
「この戦いで、五年に渡る戦乱に終止符を打つ! 大陸に大平を齎し、永遠の平和を築き上げるため――行くぞ、帝国の勇士達よ!」
「我が王国の命運は、この一戦に懸っている! 散って行った真の英雄達の想いに、我らは応えねばならん! 一人たりとも、この先へ通すなッ!」
双方の将の叫びに、兵達は怒号で応え――戦士達の咆哮が、大空へと響き渡る。
血で血を洗う彼らの死闘は、最終局面を迎えようとしていた。
かつては美しい深緑に彩られていた平原は、兵達に踏み荒らされ荒野と化し。深く広がっていた森は、火矢により炎の海と成り果てた。
そして、赤く染まる大地の中で。竜正は赤いマフラーを靡かせながら――憑かれたように戦い続けている。
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