第二章 追憶のアイアンソード
第23話 姫君達の祈り
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「案ずるな、フィオナ。タツマサならば、必ずや帝国に勝利を齎してくれよう。信じて、帰りを待つのだ」
「お父様……」
「百戦錬磨のバルスレイと、あの若さで渡り合える才覚……。勇者の力は本物だ。アイラックス将軍とも、対等以上に戦えるだろう。余は、そう信じておる」
その傍らで、フィオナの肩に手を置く父――皇帝は、娘を勇気付けるためか、鼓舞するような強い口調で彼女に語り掛ける。
彼は既に見抜いているのだ。竜正を想う、娘の胸中を。
(この戦争を一刻も早く終わらせねば、王国の資源が失われ、多くの命が失われる。……だが、そのために余は神の使いたる勇者を戦争に利用し……罪なき少年に、剣を握らせてしまった)
娘の想い人に課してしまった業の深さに、皇帝は人知れず胸を痛める。そして――己が犯した罪の重さを、改めて見つめ直すのだった。
(余の罪深さは、末代まで語り継がれることであろう。神も、二度と勇者をこの世界に導きはすまい。勇気と愛に溢れた異世界の若者
など……この世界には勿体無い)
そうして、己を責め立てつつも。
皇帝は、なおも神に縋る。
(――神よ。神罰があるならば、この暴君にのみ下されよ。そして願わくば……あの少年に、安らぎが訪れんことを……)
自らの理想のために、剣を取ることを余儀無くされた少年と、その少年を想う愛娘。彼らに齎される未来に、光が差すことを……願うのだった。
そして、その願いに近づくために――皇帝は一人の父として、娘の肩を静かに抱く。その温もりに触れたフィオナは、不安げな表情で父の顔を見上げた。
「今は、療養に専念することがお前の務めなのだ。彼の帰還を、笑顔で迎えられるように。……わかるな?」
「……はい」
フィオナ自身も、父の振る舞いから自分の想いが勘付かれていることは察しており――彼の言葉に逆らうことなく、静かに踵を返す。父の配慮を、無為にせぬために。
――が。外の世界が、完全に視界から消え去る直前。
銀髪の皇女は、後ろ髪を引かれるように……一度だけ振り返る。
「……どうか……どうか、ご無事で……」
次いで、今にも消えてしまいそうなほどの、か細い声を絞り出す。その声色には、拭いきれない不安の色が渦巻いていた。
予感が、あったのだ。
勇者の身に、何かが起きる――そんな、予感が。
そして……竜正の身を案じているのは、彼女だけではない。
遠く離れた、争いのない世界。その異界の、どこかに。
彼の影を追い求めるように、彼が暮らしていた街を彷徨う女性の姿があった。
その手には、少年の顔写真が写された紙が何枚も握られている。
女性は道行く人々にその紙を手渡し、彼に繋がる情報を懸命に探し続けていた。
だが、
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