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ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第二章 追憶のアイアンソード
第22話 帝国勇者の初陣
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めた帝国軍の斥候が、息を切らしてバルスレイの前に駆けつけてきた。片膝を着き、必死の形相で戦況を伝える彼の眼差しを見遣り、銀髪の老将は一瞬のうちに目の色を変える。

「小手調べ、というところか……。本来ならば、切り札である勇者は本隊との決戦まで温存しておくべきだろうが……」

 そして、力無い少年とは違う……一人の戦士としてここにいる、竜正の瞳を一瞥し。

「ここで彼らの出鼻を挫けば、戦局を変えることもできよう。――現代に蘇りし勇者の初陣だ! 皆の者、勇者タツマサと共に……王国軍を討つぞッ!」

 腰にした剣を天へ掲げ、竜正の出撃を宣言するのだった。彼の宣言を受け、兵達はけたたましい雄叫びを上げ、それに応えて行く。
 竜正は、そんな彼らの気勢にたじろぐ様子もなく――むしろ焚き付けられたかのように、剣呑な眼差しで戦場を射抜いていた。

(……それにしても。初陣でありながら、ここまで落ち着き払っているとは……。やはり勇者とは、人の常識からは逸脱した存在なのであろうな)

 一方。
 バルスレイは新兵が抱えるような、過度な緊張感を全く見せず、あくまで落ち着いた物腰で戦場を見つめる少年の姿に、内心で驚嘆していた。
 いくら勇者とはいえ竜正という少年は、ただの人間であるはず。母に会いたいという想いゆえに、焦りを募らせるような――情に溢れた人間のはず。

 だが、今の彼にはそんな「人間らしさ」がまるでない。戦うためだけの人形のような――ある種の不気味ささえ、その瞳に滲ませていた。

 本来ならば、そこで気付くべきだったのだろう。――彼はすでに、「勇者の剣」と銘打たれた妖刀に魅入られているのだと。

 しかし。竜正が「勇者」という特別な存在であることが、バルスレイの無理解を招いていたのだ。
 真の勇者は初陣であろうと、恐れることはないのだと……戦いの世界に慣れ過ぎた老将を、納得させてしまったのである。
 そして、その納得は――竜正への誤解となるのだ。

 ――やがて先遣隊を狙う、帝国軍の弓による迎撃を皮切りに……戦が始まった。
 轟く怒号。響き渡る、剣と剣が交わる音。散る命と、飛び散る血潮。

 命を削り合う、男達の叫びが――絶え間無く荒野にこだまする。

「……ッ!」

 そのさなかで。
 唇を噛み締め、恐怖を振り払うように突き進む少年は、敵軍の群れに飛び込むと。

「――ぉおぉおおッ!」

 腰にした一振りの刀を抜き放ち――幾人もの命を、その刀身の錆へと変えていくのだった。白い刃に、赤い血糊が纏わり付き……少年の視界を肉片が染め上げて行く。

「な、なんだッ!?」
「あの少年兵は……!?」

 乱戦の只中に突如現れた、得体の知れない怪物。その存在に、王国軍の陣形が僅かに乱れると――


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