第二章 追憶のアイアンソード
第16話 勇者の剣
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さんっ……!」
鼻から血を噴き出し、膝から崩れ落ちて行く男性。その痛ましい姿に、少女は唸るように、声にならない悲鳴を上げる。
――そして。邪魔者はいなくなった、と言わんばかりに。
野党の凶刃が、再び少女へと向けられる。
もはや、少女に残された道は、祈ることしかなかった。
(助けて……誰か! 姫様、ローク君っ……!)
彼女は心の奥底から、絞り出すように名を叫ぶ。例え、その声が届かないとわかっていても――彼女には、そうすることしか出来ないのだ。
(……ダタッツ、さんっ!)
その名を呼び――
「帝国式投剣術、飛剣風ッ!」
――男の叫びが、轟くまでは。
「……え……」
どこからともなく聞こえてくる、少女にとっては聞き覚えのある、若者の声。
それが彼女の耳に入る瞬間。
夜空から矢の如き速さで降り注いだ一振りの剣が――野党の脚を、串刺しにしてしまう。
「……ウグアアァアッ!」
野党は唸り声を上げながら崩れ落ち、のたうちまわっていた。
どれほど精神が肉体を凌駕しようとも、脚の筋肉を断たれれば人は立てなくなる。物理による強制力が、野党をねじ伏せたのだ。
肘鉄に沈められた男性も。その一閃を目の当たりにした少女も。その光景を目撃し、目を見開く。
そして、次の瞬間。
彼女達の前に、声の主が降り立ち――赤いマフラーを靡かせた。
正規の騎士のものより、一回り短い兜の角。そんな、少しだけ頼りないシンボルとは裏腹に……黒い瞳は眩いばかりの凛々しさを放ち、残る野党達を見据えている。
「ダタッツさん……!」
その姿を見つめ――少しだけ、安堵するように。少女は、彼の名を呟くのだった。
「……」
だが、彼と視線が交わる瞬間。その表情は陰りを帯び、彼の眼差しを避けるように伏せてしまった。
そんな彼女を見遣るダタッツも、顔色に憂いを滲ませている。
彼らを隔てる溝は、今も深いままなのだ。
ダタッツを睨む男性――ルーケンの瞳が、それを物語っている。
「おいこら帝国勇者ぁぁ! てめぇ無茶苦茶しやがってぇぇえっ!」
すると、その静寂を突き破るかのように――少女騎士の叫びがこだまする。
その声の主は、憤怒の形相で街角から顔を出すと、ダタッツ目掛けて突進を敢行した。それをひょいとかわし、ダタッツは険しい表情のまま周囲を見渡す。既に彼らは、狂乱の男達に取り囲まれていたのだ。
民家の屋根。路地の影。あらゆる場所から、妖しい瞳がぎらついている。そこから迸る殺気を感じ取ると、ロークも狙いをダタッツから野党達へ切り替えた。
――闘いの気配は、否応なしに少女を戦士に変えてしまうのだ。
刹那。
「グ
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