第二章 追憶のアイアンソード
第15話 無謀な出動
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「貴殿のことは、噂には何度も聞いた。が、こうして直に会うのは初めてになるな」
「……はい」
日も沈み、夜の帳が下りる頃。ダタッツは、国王が横たわるベッドの前に跪き、瞼を閉じて頭を垂れていた。
そのベッドの後ろには、一振りの巨大な剣が飾られている。その大剣は、黄金の柄と白銀の刀身から、まばゆい輝きを放っていた。
「私の後ろに飾られた剣。貴殿ならば、見覚えがあろう」
「ええ。――アイラックス将軍の剣、ですね」
「うむ。貴殿に敗れたアイラックスが遺した、唯一の遺品。今の私やダイアンにとっては、御守りのようなものだがな」
一見すれば、病床に伏した国王と一人の騎士でしかない。だが、彼らの過去には浅からぬ因縁が渦巻いている。
我が国を敗戦国に堕とされ、妻を失い、娘を危機に晒された国王。その未来を王国に齎した、帝国勇者。
双方の間には、埋め難い溝が広がっている。
「――私欲のために、神器たる勇者の装備を戦争に利用し……我が王国を蹂躙した災厄の勇者。その行いを皮肉るように、貴殿を『帝国勇者』と呼ぶ者もいる」
「……」
だが。
国王の口調には、怒りも悲しみも滲んでいない。あるがままの事実を、ありのままに語るのみであった。
大切な民を失った苦しみのあまり、心を病んでしまったのか。そう勘繰るダタッツに対し、国王の表情には曇りの色すら伺えない。
憎しみさえ越える「人格」の為せる業が、彼の姿を形作っているのだ。
「しかし――貴殿は戦後、死を偽って帝国を去り、私達の前に再び姿を現した。それも、私達の窮地を救う救世主として」
「それは……」
「ダイアンから聞いている。王国と戦う理由を失ったから、であったな」
国王が伏しているベッドの傍らに控え、完全武装でダタッツを警戒しているダイアン姫は、父に名前を出された途端に瞳の鋭さを増した。ダタッツは彼女の眼差しに貫かれながらも、真摯な眼で国王を見上げる。
「ならば……貴殿には私欲など、なかったのであろう。貴殿が噂通りの、強欲に塗れた男であったならば――帝国軍人としての地位を捨てることも、ババルオと争うこともなかったはずだ」
「国王陛下……」
その瞳を見つめる国王の表情は、真摯そのものであった。ダタッツを睨んでいたダイアン姫も、彼の真剣な横顔を一瞥すると――父の言葉を信じようと、警戒を薄めていく。
「――だからこそ、知りたくもなる。貴殿が如何なる理由で剣を取り、我らと戦う道を選んだのか。何故、貴殿が『帝国勇者』となったのか」
「……」
「それを知ることが出来れば――多少は、この私に残された悲しみも薄れよう。憎しみも、乗り越えられよう。理解し合うことを投げ出せば、残るものは負の感情のみなのだから……」
そして、ようやく。国王の想いが
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