第二章 追憶のアイアンソード
第14話 ある日の稽古
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
嫌麗しゅうございます」
「挨拶など結構です。それよりダタッツ様、稽古が終わったのであれば、お時間を頂けますか?」
「……?」
「父が……あなたと話がしたいと」
そんな彼女の口から語られた用件は、ダタッツの関心を強く引き付ける。この王国の現国王が、自分と話をしたいというのだから。
この国に災厄を齎した帝国勇者が、その国王と直に会う。その危うさを鑑みてか、ダタッツを見るダイアン姫の顔色は、普段以上に険しいものになっていた。
「……わかりました。直ちに参りましょう。すぐに片付けますので――」
「あなたの用事を待ってはいられません、すぐに来てください」
「え、ちょ、ちょっと……!?」
剣呑な雰囲気を湛えるダイアン姫は、ロープを片付けようとするダタッツの手を引き、強引に彼を王族の寝室まで連行していく。
思わず彼がたじろいでしまうほどに、その動きには無駄がなかった。彼女が纏う刺々しい空気が、一切の問答を許さぬ強制力を生み出しているのだ。
(……あなたが、帝国勇者などでさえなければ……)
そうして、彼女がダタッツを睨む理由は、憎悪か恋か。あるいは、その両方か……。その答えは、ダイアン姫自身ですら見つけられないままでいた。
一方――もう一人。
ただならぬ想いで、ダタッツを睨む少女がいた。
(なんでだよ……! なんで帝国勇者が、オレ達を助けるんだよ! なんで今更になって、味方になるんだよ!)
その想いを抱える者――ロークは、先程ダタッツに握られた手を見やりながら、強く唇を噛み締める。そこから滲む血の色は、彼女の憤りを表現しているかのようだった。
……彼女もまた、ダタッツに複雑な感情を向けている人間の一人だったのだ。
父を殺めた張本人であると同時に、自分やダイアン姫を――ひいてはこの王国を、ババルオの手から救ってくれた恩人でもある。そんな彼に、どのように接すればいいのか。
幼い彼女には、その戸惑いを怒りに変えてぶつけるしかなかったのである。
(もっと速く味方になってたら……父上だって死なずに済んだのに! 姫様だって、もっと笑顔でいられたのに!)
そして――今。手に触れた彼の温もりが、ロークの心をさらに惑わしていた。
ダタッツに引かれた自分の手を見つめていた彼女は、姫君と共に去り行く彼の背中に視線を移す。その時、彼女は初めて――敵意以外の色を、表情に滲ませていた。
(……こうなったら、意地でも確かめてやる。あいつが、ホントに味方になったのか。なんで味方になったのか。あいつに着いていって、全部オレが暴いてやるんだ!)
そう決意してからの彼女の行動は、「迅速」の一言に尽きるものだった。
地面に刺さったままだった自分の短剣を素早く引き抜くと、転がるように駆
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ