第二章 追憶のアイアンソード
第13話 王国騎士ヴィクトリア
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する人の形見を授けてくれたフィオナに、一礼を捧げて。
――その時。
(……しかし。勇者でなければ抜けない、というのは本当なのだろうか。この剣を一目見た瞬間から――何か、惹きつけられるようなものを感じていたのだが)
剣に眠る形容し難い「力」が、ヴィクトリアの心を吸い寄せていた。
この謁見の場で剣を抜くなど、神をも恐れぬ愚行の極み。だが、それでも彼女は――その手を、柄に伸ばしていた。
そう。
この時既に彼女は――
「……どうしたのだ? ヴィクトリアよ」
「皇帝陛下。この剣が勇者にしか抜けぬ代物であるというのは、誠ですか」
「――勇者でない者には、如何程の剛力を以ってしても抜けん。それだけが真実だ」
「そうですか……ならば」
――勇者の剣に、魅入られていたのだ。
「な、に……!?」
「……っ!?」
次の瞬間。
眼前で起きた光景に、皇帝やフィオナ――そして、この謁見の場に集う人間全てが、驚愕し……戦慄する。
皇帝に背を向けたヴィクトリアは――天に切っ先を捧げるように。
「なぜ――私に抜けるのでしょう」
勇者の剣を――抜き放ったのだ。
柄を握り、抜刀するまでの流れには……一切の淀みもない。抜けないどころか――まるで、彼女のためだけにこの剣が在るかのようだった。
『ワガ、タマシイ……ヤドリギ……ミツケ、タリ……』
刹那。
この場にいる人間の誰とも一致しない、深い地の底から唸るような声が――彼女の心に響き渡る。
だが、その声は誰の耳にも入らない。剣の柄を握る、彼女以外には。
「な、なぜだ。なぜ、ヴィクトリアに勇者の剣が……!」
ありえない事象を前に、皇帝は額に汗を滲ませる。一方、フィオナは剣を抜いてからのヴィクトリアの変貌振りに、言い知れぬ恐怖を覚えていた。
今のヴィクトリアには――女騎士としての気高さが感じられなかったのだ。例えるなら――血に飢えた狂戦士。
「急がねば……! 一刻も早く王国へ帰還し、ババルオの血でこの剣を染め上げねば……!」
兜の奥で、彼女の瞳は獰猛に血走っている。己の内に抑え込まれた黒い感情の全てが、濁流となり鎧の節々から溢れ出ているようだった。
「え、衛兵ッ! ヴィクトリアを鎮め――」
その全身から放たれる殺気を前に、本能で危機を感じた皇帝が、衛兵を呼んで彼女を抑えようとする――直前。
「皇帝陛下、申し上げますッ!」
謁見の場に、一人の帝国騎士が駆け込んで来た。兜から滴る汗の量から、相当な急ぎ足で駆けつけて来たことが伺える。
急を要する報告があるのだろうが――あまりにも間が悪い。
「なんだ、こんな時に!」
「申し訳ありません! 急ぎ、お耳に入れ
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