第二章 追憶のアイアンソード
第13話 王国騎士ヴィクトリア
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女が帝国勇者を超えた証として……この『勇者の剣』を授けよう」
その正体――勇者の剣の刀身を前に、ヴィクトリアは息を飲む。
(これ、が……!)
父を倒した剣を目の前に差し出され、彼女の動悸は大きく跳ね上がった。
「この大陸を統一し、平和な世界を創り上げるためとはいえ……戦争に勇者の力を利用した以上、神が我が血統に勇者召喚の力を残すことはないだろう」
「……」
「ゆえに、もうこの剣を帝国が保持する必要はないのだ。――この世界にもう、勇者はいないのだから」
六年前の皇帝の決断により、神の怒りを再び招いたのであれば、人類に残された希望である「勇者召喚」の力さえ失われる。
ならば金輪際、この世界に勇者が現れることはなくなるのだ。そして勇者でなければ使いこなせないと言われる勇者の剣も、無用の長物と化す。
ゆえに皇帝は、勇者に次ぐ強さを持った彼女に、この剣を託したのだ。帝国勇者を超えた証――すなわち、帝国勇者の「首」の代わりとして。
「勇者でなければ抜き放つことも叶わない剣だ。武器として貴女が使うことは出来ぬが……好きに扱うがよい」
「……」
皇帝は穏やかな声色で、ヴィクトリアに語り掛ける。父を失った彼女を、気遣うかのように。
その一方で、皇女のフィオナは鎮痛な表情を浮かべて、勇者の剣を捧げていた。その顔色から、帝国勇者の死を深く悼んでいることがわかる。
(帝国勇者の剣……か。これを持ち帰れば、天に召された父上にも申し訳が立つ、か……)
そんなフィオナの面持ちや皇帝の様子を見遣り、ヴィクトリアは己に渦巻く苛立ちを鎮めて行く。
愛する者を失う悲しみ。それは決して自分だけに課せられたものではないのだと、改めて思い知らされたからだ。
(皇帝陛下は敵である私を気遣い、皇女殿下は帝国勇者の形見を、この私に託されている。ここまでのことをされて、いつまでも苛立っていては……私の立つ瀬がなくなってしまうな)
ダイアン姫を案じる想いと、今目の前に在る心遣いに応えたい想い。二つの感情が螺旋となり、彼女の胸中に渦巻いていた。
(姫様……暫しお待ちを。すぐにこの剣を手土産に、そちらへ馳せ参じます)
そして、彼女は――この心遣いに応えた上で、全速力で帰国することを決断した。
怨みを忘れたわけではない。しかし、今はそれに気を取られている場合ではない。
自分は王国の騎士であり、ダイアン姫を守る使命があるのだから。
その想いを胸に、彼女はフィオナから剣を受け取る。か細い腕から鞘が離れる瞬間、フィオナが浮かべた儚い表情から――彼女の、帝国勇者への想いの深さが伺えた。
彼女の気持ちを悟り――その上で気付かぬ振りをして、ヴィクトリアは己の両手に鞘を握り締める。心の奥で……愛
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