第一章 邂逅のブロンズソード
第12話 王国騎士団・予備団員ダタッツ
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の寄付をするというのは、ダタッツ個人に寄付をするに等しいと言える。彼が唯一の予備団員であることが広く知られている以上、それを承知の上で寄付をしてきた可能性が高い。
帝国勇者に寄付をすることで、媚を売ろうとしているのか。そうしなければ殺されると思っているのか。
(あるいはその両方、か……しかし)
内心でため息をつきながら――ダタッツは報告の内容を思い返した。
剣と盾に充てて欲しい。つまり、アンジャルノンとの戦いで破損した銅の剣と木の盾に代わる装備を新調したい、ということだろう。
装備を、買い換えてあげたい。
そんなことを言ってくれた人が居たことを、ダタッツは静かに思い出していた。
(まさか……いや、まさか)
自分を見つめる、怯えた瞳は――今も深く脳裏に焼きついている。だが、ほんの僅かな可能性の欠片は、ダタッツの心を捉えて離さない。
「それから、その寄付者から差し入れもありまして。騎士団食堂に昼食が届けられておりますので……」
「――わかりました、ありがとうございます!」
言うが早いか、ダタッツは食堂に早足で向かっていく。焦りの色を漂わせる彼の様子を目の当たりにして、報告に来た騎士とロークは目を丸くし、互いに顔を見合わせていた。
驚愕に値する出来事であったからだ。帝国勇者が、焦っていると。
(……この、香りは……!)
その頃。廊下を渡り食堂に近づいていくダタッツは、鼻腔を擽る香りに引き寄せられていた。
帰巣本能の如く――よく知る「香り」を、求めて。
そして、扉を開いて……食堂へ踏み込んだ、その時。
(……ああ、やっぱり)
どこか懐かしく、遠い香り。二度と見ることはないだろうと、思い続けていた景色。それが今――ダタッツの前に広がっていた。
パンとスープ。油が乗ったステーキ。
……あの料亭で見慣れたランチが、ダタッツの席に用意されている。
「……本当に。買い換えてくれたんだな……」
震える片手で顔を覆う彼の口元は、安堵するように緩んでいた。ようやく、わかったからだ。
自分に向けられた感情は――憎しみだけではなかったのだと。
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